性に関わる分野で仕事をしていると、「性のお悩み相談」を受けることがよくあります。
私が勤めているTENGAの女性向けアイテムブランド「iroha」では、よく性に関するトークイベントを開催するのですが、事前に質問を募集すると女性からのお悩みがたくさん届きます。私のTwitterアカウントにも、DMや匿名で質問ができるサービスを通じて、性別問わずさまざまな質問が寄せられます。
webでさまざまな情報に触れて「自分のセルフプレジャーって変なのかな?」と思ったり、パートナーとの関わり方に疑問を感じたりして、メッセージを送られる方が多いようです。TENGAヘルスケアが運営する、中高生の「性のモヤモヤ」に応えるサイト「セイシル」でも、大人の方からメッセージをいただくことがたまにあります。

特に最近は、女性向けのライフスタイルメディアやファッション誌から、このテーマの取材を受けることが多くなってきました。身近なメディアが取り上げることによって、読者の方が「性の悩みは恥ずかしいことじゃないんだ」と感じやすくなるのはとてもうれしいです。
一方で、取材を通して強く感じるのは、「セックスやセルフプレジャーの“正解”をほしがっている人が多い」ということです。

好きなことは人それぞれなのに、求められる“正解”

たとえば、「男性はこうすると気持ちいいって本当ですか?」「彼女をイかせたいんですけど、どんなアイテムを使えばいいですか?」など、「男性/女性ってこうなんですか?」と性別で捉えた質問をいただくことがよくあります。
男性はこう、女性はこう、と言えてしまえば楽なのですが、感じ方は人それぞれ。大まかな性差はあるにしろ、個人によって感じ方や好きなポイントは違うので、「結局は目の前の相手とコミュニケーションを取るしかない」ということをお話しています。

また、女性だと「そもそもセルフプレジャーのやりかたが分からない。どこをどういう風に触ればいいか分かる“手順書”がほしい」という声も多くいただきます。
もちろん手指やアイテムを清潔にして行なったり、リラックスできる環境を作ったり、守るべき基本的なことはあります。でも、結局これも「感じ方は人それぞれ」という回答になってしまいます。
確かにセルフプレジャーに限らず、初めて体験することはこわいですよね。とりあえず“正解”と呼べるものがほしい気持ちも、分かります。

自分で選べることは、自由だけど大変でもある

仕事や結婚など、人生を大きく左右する事柄について、周りに合わせるのではなく、自分らしい選択がしやすい社会になってきたなと感じます。
自分らしい選択をすることは、逆から言えば「分かりやすい正解がない」ということでもあります。「みんながこうしているから」や「世間ではこれが常識だから」が絶対的な基準にならず、その都度自分にとって最もよい選択肢を考えていく、自由だけれども険しい道です。
だからこそ、「こうしておけば問題ない!」と誰かが作ってくれた正解を欲する気持ちも、人々の中で高まっているんじゃないかと思います。

セクシュアルな領域においても、同じことが起こっていると感じます。
「セックスは男性がリードするべき」「女性はセルフプレジャーなんてしない」など、これまで言われてきた“正解”に縛られなくてもいい。であれば、自分は何を選んだらいいんだろう? と悩む人が、増えているのではないでしょうか。

自分で“正解”を見つけた先には、大きなよろこびがあるはず

残念ながらこの悩みに根本的な処方箋はないのですが、ひとつだけ言えるのは、「自分/相手にとっての心地よい性行為を見つける近道は、『なぜ?』を言語化し続けること」です。
少しでも心地よく感じたこと、逆に何か引っかかったり、不快に感じたりしたことがあった時、「なぜそう感じたのか」を立ち止まって考える。それは自分をより心地よくさせることに繋がるし、相手ありきの行為の場合は、理由や要望をその人に伝えて、ふたりでより心地よくなるのに役立ちます。
性的な快感を考えること自体に恥ずかしさを感じる場合は、なぜ恥ずかしいと感じるのだろう? と考える。そうして自分の中を深く覗き込み、言葉にしていく作業の積み重ねこそが、いつか自分なりの“正解”を導き出してくれるのではないかと思います。

セクシュアルな自分の欲求をつぶさに見つめたり、相手に自己開示をしたりすることは、時に苦痛を伴います。人間誰しも、「既に決められた“正解”に身を委ねてしまったほうが楽」という時もあるでしょう。
それでも、自分だけの“正解”を見つけた人にしか得られない、大きなよろこびが絶対にあると、私は思うのです。