やっぱふつうが1番だよね!
私の周りはたいていそう言った。
学生時代、周りの人たちは群れることを好み、休み時間は一緒にトイレに行き、かわいいものを写真におさめていた。大げさに笑い合い、流行りのドラマやマンガ、ファッションなどの話に花を添えた。それがふつうなようだった。

でも私は違った。群れることを嫌い、休み時間は自分の好きな絵や文章をかいた。トイレに行くのは1人が当たり前、かわいいものは1人でそっと愛でる方が好き。流行りについていくことはなく、笑うのはおもしろいものを素で笑えるからいいんだと思っていた。
学生だから、群れることを好み、出る杭は打たれるから同調意識が高くふつうでいたいと思うものだと思っていた。

しかし、結局その意識は大人になっても変わらないことを知ることになった。
私は大学を卒業後、教員になった。教員は私の小学生の時から夢だった。周りの知り合いも安定した教員という職についたことを喜んでくれた。学校ではたくさんの人たちとふれあい、自分とは違う価値観の人の話を聞くことができた。とても良い学びになった。子供たちは私の見て触れて感じる授業を楽しんでくれていた。

みんなのふつうじゃないから非常勤で働くことを責められるけれど

しかし、思い描いていたものとは違う部分が多く、身体的にもきつく、1年で退職することを決めた。
苦渋の決断だったが、自分の健康や今後のことを考えるとやむを得なかった。

すると周りは、安定した職なのに!やめるなんてもったいない!やめたらこれから困るだけだ!と私を非難した。仕事をやめるということ、安定した職から離れるということはふつうに考えるとよくないことのようだった。
学生だから同調意識が高く、ふつうでいたいと思うものだと思っていたが、そうではなかったと気づいた。それは退職してすぐのことだった。

私は1度退職し、2ヶ月後に非常勤として仕事を始めた。ボーナスはなし、時給制で毎月の給料はバラバラで不安定な職になった。
周りは冷たい目で私を見た。いつになったら安定した職につくのかと問われることもあった。
また、教員仲間や大学の同期の人たちに、いつ試験を受けるのか、正規職員にならないのかと煽られることもたびたびあった。次第に自分のあまり知らない人まで、なぜ非常勤なんだ。もったいない、と言うようになった。
みんなのふつうは正規職員になること。みんなのふつうは安定した職につくこと。みんながやっていることがふつう。私はふつうじゃないから責められる。

ふつうを追い求めていたら見えなかった世界がここにある

でも、私はふつうに考えるとよくなかった退職は正解だと思った。
なぜなら余裕のある生活が可能になったからだ。
仕事に追われ、身体も壊し、周りが見えなくなりそうになっていた。身を粉にして働くだけの毎日。頭の中は仕事のことばかりで職場でも家でも仕事のことで精一杯。楽しいことよりも苦しいことの方が多かった。
周りにもイライラをぶつけてしまうこともあった。

しかし、非常勤として働くようになったら私の生活は一変した。
自由な時間が格段と増えた。好きな絵や文章をかくことができた。学生時代やっていたピアノや手芸もできた。家で料理も頻繁に作るようになり、家族が喜んで食べてくれた。
仕事の仕方にも変化が出てきた。細かいことに気付くようになり、より良い方法を模索する時間ができた。
困っているだろうと感じることは積極的に手伝えるようになった。ありがとう、いつも助かる!と感謝の言葉を言われるようになった。
自分の見る世界が変わったように感じた。

ふつうを追い求めていたら見えなかった世界が、ここにある!
給料は少なくなってしまったのは確かだけれど、私はふつうの安定した給料をもらっていた時よりもずっと幸せで楽しい時間を過ごせるようになった。
ふつうを超えた先は、私にとってふつうよりも自由でステキで、輝いた世界だった。