あんなに毎日仕事について繰り返し考えていたはずなのに、いざ書き始めると、言葉がでてこなかった。
どこから始めればいいだろう。
まずは、わたしが初めての世界に飛び込んだところまでさかのぼりたい。

大学を卒業して、わたしは突然「学生」から「先生」になった

大学を卒業して、わたしは教員になった。
「学生」から突然「先生」になった。仕事を始めたばかりのころは、新しい環境にただ慣れていくしかなかった。
わたしは「先生」になったのだから。しっかりしなくちゃ。周りはわたしを大人だと思っている。うまく大人を演じなきゃ。落ち着いたふりをしなくちゃ・・・。

いっぱいいっぱいだった最初の頃、わたしは柔軟で、どんなことも受け入れることができた。子どもたちと関われるのが嬉しかった。どんな仕事も精力的にやった。初めてのことばかりで大変だったけれど、わくわくもした。
しかし、日々が過ぎるうちに、わたしは違和感を持つようになっていった。

朝早く、帰りも遅い。残業代は出ない…。学生の時考えていた仕事と大きな差があった

仕事に対してわたしが反抗し始めたのは、ある言葉がきっかけだった。
「先生って最高の仕事だよね」
先輩の先生が、ある時わたしにそう言った。思わず、うんうんと話を聞いていた笑顔が固まってしまった。
その時のわたしは、この職業に対してこう感じていたのだ。
『先生って大変。朝も早い。帰りも遅い。いくら働いても残業代は出ない。休日は家族との時間を返上して「子どもたち」に尽くさなければいけない』。

子どもたちといて楽しい時もあるけれど、大変、つらい、疲れた、と感じる時間はその倍はある。わたしが学生の時考えていた仕事と大きな差があった。
教えるだけじゃないんだ。子どもたちと向き合うだけじゃないんだ。永遠に終わらない事務仕事は日が暮れてからも続く。上司は「それがあたりまえだよ」なんて顔をして、わたしが定時に帰ろうとする日には、ちょっとこそこそ帰らなければいけない・・・

「先生って最高の仕事だよね」。まだ全部は分からない。けれど、今度こそは。

皆さん、きいてほしい。
「将来の夢」は夢ではなくて現実だった。理想のなかだけにあるのではなくて、生活していくために、わたしたちがこれから生きていくために必要なものだった。
わたしの笑顔が固まったのは、夢のなかで生きている「先生って最高の仕事だよね」という先生の言葉に共感できなかったから。その場ではなにも言えなかったけれど、先生、わたしは今ならばこう伝えたい。
「いいえ先生、わたしは子どもが好きですが、それだけです。働くことは大変でした。いまわたしは生活のために働いています。そう思うことにしています。そうでなければ、大変な時、つらい時、泣いていくような帰り道に自分を納得させられないからです。子どもたちは好きです。だけど、お給料をもらっているという責任、立場の責任、終わらない業務が、子どもを愛したい自由な気持ちを重くします。」

そうして、こう付け加えたい。
「でも、こうも思います。子どもたちが何年か経って、少し歳をとったわたしに声を掛けて、あの時はありがとうございましたとお礼を言ってくれた時には、わたしが働くことで彼らの中に意味を残せたのかなと、少し嬉しくもなりました。わたしはいまも生活のために働いています。だけど、そこに付加価値をなにか残せたなら、わたしのことば、行動でなにかを良い方向に変えられたなら、わたしもあの言葉の一部だけでも、今度こそ笑顔で受け入れたいと思います」
以上。