私には最愛の妹と弟がいる。子ども時代に親の離婚を経験したことで、私たち姉弟はもれなくシビアな結婚観を持つに至る。嫁姑、金銭、互いの家族、価値観…我々にとっては、結婚=現実。決してファンタジーではない。

突然リアルになった『妹の結婚』。正座する彼女が、遠い他人のようだ

この秋、妹から恐ろしいLINEが送られてきた。「結婚しようと思うんだけど…週末、彼氏を紹介するために帰省します。」実家に住む私と弟は手を取りあってガクブル震えた。どうする?どうする?動揺を隠せない。とりあえず家の掃除しとくか。

以前から彼氏がいるのも知っていたし、彼と結婚を考えていることも聞いていた(離れて暮らす妹とは毎晩電話する仲だ)。

それでも、いざ紹介されるとなると違う、全然違う。突然リアルになった『妹の結婚』に、心の準備ができないまま当日を迎えた。

彼とふたり、かわいい軽自動車でやって来た妹は何処からどう見てもガチガチに緊張している。私と弟の比にならない。借りてきた猫というより銅像のようだ。ちゃんと息できてる?

座布団にちょこんと正座する彼女が、なんだか遠い他人のようだ。娘を嫁に出す母の気持ちってこんな感じかしら。一方の父は、特に何を言うでもなくむっつりと胡座をかいている。どうやらショックで声も出ないらしい。

妹が傷つく姿だけは見たくない。両親と同じ轍を踏んでほしくない

挨拶を済ませ一緒に食事をとると、2人はそそくさと撤収して去った。そしてその晩、私と弟だけで行われた家族会議。私たちは互いに目配せをして、う~んと唸る。同じことを考えているようだ。どうにも彼氏に信用が持てない。

ギョッとした。目の前で弟が鼻をすすっている。おいおい、相変わらず敏感な涙腺だな。
「あの人と結婚して幸せになれるかな?」弟はティッシュで勢いよく鼻をかむと呟いた。私たちは、結婚生活を通して妹が傷つく姿だけは見たくないのだ。両親と同じ轍を踏んでほしくない。

どんな相手と結婚するか、或いは結婚しない人生を選ぶか。現代において結婚というものが、人の数だけ多様性に満ちていることを純粋に「いいね!」と思う。
でも結局それは他人事の視点に過ぎなかった。現に私は、妹の彼氏に不満があるってだけで後ろ向きになってしまう。

父は変わらず沈黙を貫いているし、弟は涙腺ゆるゆるで話しにならん。私も余計な心配をして素直に結婚を祝えない。妹も厄介な家族を持ったものだ。

辛くなったら、両手を広げて迎えよう。それが唯一できる、妹への餞

私は考え抜いた末、結婚に『賛成』の一票を投じる決意をした。

遠い昔、母親が言ってくれた言葉が耳に残っている。「沢山傷ついていいから、好きなことをしなさい。ママがついてる」

そう、傷ついてもいい。それが自分のやりたいことなら泣いて悔しい思いをしても良いのだ。(永遠に続く幸せを願っているけれど)思いがけず辛い気持ちを抱えてしまった時は、私が両手を広げて迎えよう。姉の私が唯一できる、妹への餞だ。

前述の通り、私たち姉弟は結婚に対してシビアだ。失敗は許されないと無意識に感じている。そこへ飛び込んでいく妹は、浮き足立つ気持ちと不安を同じくらい抱えているのかもしれない。

あの日、私が口に出さずとも「お姉ちゃん、私の彼氏を良く思っていないな」と妹は感じ取っていたはず。姉妹って、心の声も筒抜けになってしまうから時々不便ね。

次に妹が彼氏を連れて来るときは、彼にもう少し柔らかく接しよう。叶うなら、彼が私の「宝もの」を生涯大切にしてくれますように。

追伸…結婚式の日取りも決まっていないのに、フォーマル用のハンカチを5枚も購入してしまった。妹のハレの日、弟の涙腺が心配だ。ハンカチ、足りるだろうか。