「面白きことは良きことなり!」
学生時代に付き合っていた彼が好んでよく口にしていた。私にとって思い出深く、大好きな言葉だ。
森見登美彦氏が著者の「有頂天家族」という小説をご存知だろうか。当時、彼が1番大好きな本に出てくる言葉であり、私も何度も繰り返し読んだ。
典型的なお調子者キャラだった彼と、冗談が通じない私
彼は楽しそうによく笑う。いわゆる典型的なお調子者キャラだった。彼の周りにはいつもたくさんの人がいて、どんなネガティブなものや自分の意見も面白いエピソードに変えては周囲を笑いに包ませた。そして、楽しかった後やひと通り笑い終わった後にその言葉をよく言っていた。
一方で私は冗談が通じない、面白みがなく、真面目すぎる学生だった。サークルでとっつきにくい人物といえばすぐに私の名前が出てくるぐらいには、いつもつまらなさそうな顔をしていたんだと思う。例え遊びであったとしても真面目にする、正しくすることに重きを置く価値観で、何事もきちんとすべきという気持ちが強かった。その気持ちが強いが故に他の人と意見がぶつかった際に自分の意見を押し通そうとするところをよくサークルメンバーやクラスメイトに注意されていた。
人と話すのが好きになり、「よく笑って楽しそう」と言われるように
そんな彼と私が付き合ったことも不思議だったけど、彼は私を楽しませることに余念なかった。知らない場所、景色のいいところで飲むコーヒーの美味しさ、あまり興味がなかったゲーム、そしてたくさんの本たち。
彼は私を色んな世界に連れ出した。
そのなかでも特に「有頂天家族」は特別で、次第に楽しくなったり、たくさん笑った時は彼と「面白きことは良きことなり!」と言い合うようになった。
言葉に出すと、よりいっそう面白くなった気がした。
「面白いことが見つかると興味が出てきて、興味が出てくると他の人がどう思っているかが気になるし、もしそのなかに面白いものがあったら、もっと知りたくなるんだよね。だから面白おかしく生きたいな」
いつだったか彼が私にそう語った。あの頃はいま一つ意味がわからなかったけど、今はなんとなくわかる気がする。
彼といる時間が増えるにつれて、何をするにも面白いところを探せば、真面目にもできて、楽しめて、良いことづくしだとごく自然に思うようになった。気づけば、人と話すのが好きになり、「よく笑って楽しそう」と言われることが増えて嬉しかった。
もう恋人には戻らないけど、彼との出来事を思い出して笑ってしまう
彼とは卒業と同時に恋人ではなくなり、友達として時折連絡する仲になった。今でも彼との出来事を思い出して笑ってしまう。
もうあの頃みたいに恋人になることはないけど、尊敬すべき私の師匠だ。
学生時代と変わらず、面白おかしく生きているらしい。
私は「有頂天家族」と彼からきっと楽しむことを教わったんだと思う。どんな時でも面白おかしくするにはどうしたらいいか考えて楽しむ。そして、めいっぱい楽しめたら、「面白きことは良きことなり!」と余韻に浸る。
社会人になってからこれがなかなかに難しくて、できていない時が多い。でも、そんな時ほど面白くなくてもその言葉をあえて口に出していきたい。
なんだかんだで、きっと楽しくなってきそうだから。
出典
「有頂天家族」
著者:森見登美彦 出版社:幻冬舎