ピンクは「かわいい」姉の色。「賢いね」と言われた私は別の色
「お姉ちゃんがピンクで、あなたは違う色ね」
ピンク色は私にとって、ずっと姉の色だった。
姉は目がぱっちりしていて、鼻がすっとしていて綺麗な顔をしていた。「かわいいね」って両親や祖母に言われて育っていった。
私は容姿を褒められることより、頭の良さを褒められることが多かった。「かわいいね」より「賢いね」って言われて育った。
だからお姉ちゃんはピンクで、私はそれ以外の色だった。
姉妹でかわいいふわふわのドレスを着るときも、お姉ちゃんはかわいいピンクで、私は元気な黄色。
小学生の時は、お姉ちゃんの真似をしてピンクの服を着ていた。私のことも「かわいい」って言ってほしくてたまらなかったのかな。
それでもかわいいって言われるのはお姉ちゃんばかり。きっとピンクはかわいいお姉ちゃんの色なんだと思った。
私はかわいい子じゃなくて勉強ができる子だから、ピンクっていうより黄色とか水色って子なのかな。お姉ちゃんみたいに『ピンクの子』になってかわいいねって言われたいのに。
『ピンクの子』は諦めて、他の色の子になった方がいいのだろうな。
お姉ちゃんも「ピンクの子」じゃなかった。だったら私は何色?
気づいたら私は、『ピンクじゃない女の子』になっていた。
いつからだろう。私の周りにはピンクじゃない物でいっぱいになって、私は好きな色を聞かれても絶対ピンクとは答えないようにしようと必死になった。
だってピンクはかわいくて、『ピンクの子』のための色だから、私が好きになったら申し訳ないと思うから。私がピンクを好きって言ったらそれは違うよ、他の子の色だよってなると思っていたから。
高校生の頃にはピンクをたくさん身に着けないようになっていた。
学校でもかわいいって言われる存在じゃないし、勉強もあまりできなくなっていったし、運動もできないし、ピンク以外にも私って何色が似合うのか、どんどんわからなくなっていたような気がしていた。
お姉ちゃんはピンクを身に着けなくなったし、私に「あなたは何色ね」とも言わなくなっていた。そんなのどうしたらいいのって気分だった。
お姉ちゃんは『ピンクの子』じゃなかったの?私は何色を好きになればいいの?
私は絵を描くことが好きだった。放課後まで残ってアトリエで絵を描いていると、自分は白いキャンバスみたいに自由になって、私ってお姉ちゃんより絵はうまいかもと思った。
文章を書くことも好きで、大学生の時はライターのバイトをした。私ってお姉ちゃんより文章を書くのは絶対うまいと思った。
自分の好きや得意が増えていくうちに、私って悪くないじゃんって思えてきた。どんどん自分に自信がついていって、子供のころからずっとお姉ちゃんよりかわいくない私に自信を持てていなかったことに気づいた。
お姉ちゃんになれなくても私が私を好きならば、ピンクはどうでもよかった
ああ、私はピンクが好きじゃないんじゃなくて、お姉ちゃんみたいになれない私が好きじゃなかったんだと気づいた。お姉ちゃんになれなくても私は私のことが好きになっていって、なんだかピンクとかどうでもよくなってきた。
とはいっても、まだ私の持っている服は水色や白色が多い。ピンクが急に好きになって身につけたくなるわけでもなく、本当にピンク以外の色の方が好きだったみたいだ。
でもピンクの服だって着る。だってピンクの服を着ている私は最高にかわいい。
部屋の中だって白や茶色の家具ばっかりだ。でもピンクの時計も置いている。ピンクの時計を見るとすっごく気分が上がる。
今「一番好きな色は?」って聞かれたら水色って答える。でもピンクもピンクを身に着けている自分も結構好きだから、3番目くらいに好きな色にあげてもいいかもしれない。