祖父の病状は子供だった私に隠されていたけど、なんとなく悟っていた

人間とは儚い命だからこそ美しいとも言われるが、やはり人が亡くなるのは寂しく、慣れないものだ。
初めてそういった経験をしたのは、母方の祖父だった。私はまだ小学生で、自分では大人のつもりが、周りからは子供と思われる年齢だった。そのため、祖父が余命一年であることは伏せられていた。

それでもなんとなく、もう危ないことは悟っていた。母は「おじいちゃんに健康のお守り買ってあげようね」と言っていたし、伯父は明らかにイライラする様になった。そして亡くなる数ヶ月前、母は「おじいちゃん、死んじゃったらどうしよう」って泣き出した。いやいや、私に隠してるんじゃなかったの?」と戸惑ったのと同時に、祖父の死というものが明らかに近づいていることの怖さも同時に生じた。
お葬式の時、「黙っていてごめんね」と母に言われたが、とっくの昔に気づいていた私は返答のしようもなかったことは言うまでもない。

祖父が亡くなった後、祖父は何か重要なことの前には夢に出てくる

祖父が亡くなった日、もう容態が悪いとのことで、母だけが先に病院に行っていた。一旦父が私と妹を連れに家に帰り、父の車で病院に向かっている途中、電話が鳴った。
不思議なことで、なんだか嫌な電話な気がした。そんな音がしたのだ。
父は路肩に停車すると、電話をとって、「今、おじいちゃん亡くなった」とだけ告げると、病院へと急いだ。祖父が亡くなった時、母は泣いていたし、私も泣いた。

それから祖父は何か重要なことの前には夢に出てくるようになった。受験に合格する直前には、笑っている祖父が夢に出た。私が危ない男に捕まりそうな時は、夢で車に乗って駆けつけてきてくれた。父方の祖父の命が危ない時も、母方の祖父は出てきた。

小学校を卒業して約10年。この年になると、いかに当時が何も分かっていなかったかがよくわかる。
祖父は私には優しくて、どこにでも連れていってくれるし、なんでも買ってくれるし、甘えさせてくれる存在だったが、祖父自身がどんな人だったかは、そう言われるとわからない気がする。優秀で、人情深い人であることは確かだが、今たまに母から聞く祖父の話はどれも知らない側面ばかりだ。

祖父と私だけの秘密に近い道へ進んだ私を、祖父に見せたかった

ただ祖父がよく言っていた言葉は、「自分は頭が良かったけど、勉強しなくなってから成績が下がった。そうなっちゃいけない」という言葉だ。ここの高校に進んで欲しいって祖父に言われたこともある(言われる前から第一志望で、そこに進んだ)。
入院しだしてからは、なぜか薬剤師になるのがいいんじゃないかって言われた。そして、薬剤師ではないが、これから化学専門の研究者になる。
もちろん母には何も話していなかったらしく、当時そう言われたと言うと驚かれる。妹にも話してなかったらしい(妹は全然違う専門の道に進んだ)。

祖父と私の間だけの秘密の会話。そう思うと祖父はもしかしたら、人を見る目があったんじゃ、とも思う。
きっと、今の私を見たら祖父は喜んだに違いない。なんで見せられなかったんだろう、早すぎるよ。

最近夢に出てくるのが、母方の祖父から父方の祖父にバトンタッチしている。自分の仕事は終わりと言わんばかりなので、たまには出てきて欲しい。
あとそれと、祖母にひ孫を見せなくてはならないし、祖母を世界最高齢にしなくてはならないので、それまでは連れて行かないでほしい。

そう願いつつ、当時の秘密の会話の真相を少々伺いたい今日この頃だ。