どうして女性には妊娠出産なんてめんどくさい機能が備わっているんだろう。
幼い頃から不思議で仕方なかった。
妊娠している人って体調は悪そうだし、お腹が大きくなって大変そう……。
出産後も子育てに追われて毎日大変そう……。
そんなネガティブなイメージしか持てなかった。
周りの女の子たちは思春期に差し掛かった頃から、
「子どもって可愛いよね!!」
「私も赤ちゃんほしいなぁ……」
と言っていたが、その気持ちが全く理解できなかった。

思っていたよりも早くに妊娠。人生が終わると、絶望でしかなかった

こんな私は「女性失格」なのだろうか、と悩んだこともある。
だけど、私は思っていたよりも早くに妊娠してしまった。
自分でも受け入れられなかったし、相手も妊娠を喜んでくれなかった。
妊娠すると、周りから「おめでとう」と言われる、一般的には祝福される出来事なのだろうが、私にとっては絶望でしかなかった。
あ、私の人生はここで終わりなんだ。
そう思った。

「中絶しよう」と思い、すぐに病院に行ったものの、エコー写真を見ると、それもできなかった。
中絶が悪いこと、良くないこと、と植え付けられていたのだと思う。
学生時代に、他の国では中絶は女性の権利として認められている、という話を聞いたことがあり、知識としては「中絶も女性の選択肢の一つだ」と思えたが、実際にはそれほど簡単に割り切れるものでもなかった。
出産する覚悟はできていないものの、妊娠を継続するしかなかった。

全部夢だったらいいのに。自分の中に宿るいのちを、愛しいと思えない

私にとって、妊娠期間中はただただつらかった。
壮絶な悪阻に襲われ、それは出産前日まで続いた。
さらに自分の中に宿るいのちを愛おしいとは、全く思えなかったのである。
スーパーでベビー服売り場にいる妊婦さんに目がいき、しばらく見ていると、お腹に手を置き、産まれてくる我が子に思いを馳せながら幸せそうにベビー服を選んでいた(当時の私にはそう見えていたが、今思うとこの妊婦さんも内心は不安な気持ちや妊娠を受け入れられない気持ちを持っていたのかもしれない)。

私には母性なんてないのかな?
母親になんてなれないんじゃないかな?
このまま全部なかったことになればいいのに。
全部夢だったらいいのに。そんなことばかり思っていた。
胎動も身体を乗っ取られ、自分の身体ではなくなるように感じて、ただただ怖かった。

何とか耐え抜いて、出産した我が子。
可愛い……???
よくわからなかった。
「自分の子は特別だよ!!」「自分の子は可愛いはずだよ!!」と言われていたものの、正直あまり自分の子と他の子との差は感じなかった。

息子を可愛いと思えた理由は、ほかの子より一緒にいる時間が長いから

出産後2年ほど経った時、やっと息子を可愛い、と素直に思えた。
毎日一緒に過ごす中で愛情は生まれてきた。
だけど、それは「自分の産んだ子だから…」「自分の子だから……」というわけではない。
ほかの子よりも一緒にいる時間が長かったから情が生まれた、というだけだ。
これが私の素直な感想で、この文章だけ読んだら「なんてひどい母親なんだろう……」そんなふうに思う人もいるかもしれない。
だけど、これが美化していない私の素直な気持ちなのである。

妊娠出産を変に意味付けしたり、「母親」という存在を神格化する人もいるけれど、そういった思い込みで自分自身を追い詰めたり、周りの人を責めてしまうのならば、私はそんな考えは捨てようと思う。
こんな母親がいてもいいじゃん、そう思い始めてからあまり出産ということ自体を重く受け止めなくなった。

私は今懲りずに2人目を出産して育児をしている。
子どもがいる自分自身を、子どもがいる自分の人生を引き受け始めたのだと思う。
出産は人生の終わり、と思っていたが、終わりにするのも始まりにするのも私次第だという事に気がついたのだ。
出産はひとつの転機。
私にとってはただそれだけ。