放たれる全ての言葉が信じられなくなった。端的に言えば、これが別れを決意した理由だ。
5月中旬、約3ヶ月続いた私達の関係は終わった。
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彼とはネットゲーム(以下ネトゲ)上で知り合った。親しくなってから何度か会って、ある時に彼のほうから付き合う話を持ち掛けられた。
とはいえ、ネトゲで見せている私の性格は偶像にすぎない。その偶像を愛してもらえるのはそれはそれで嬉しいことだけれども、現実世界の私がその偶像と同様に振る舞える訳ではない。
そういった自信のなさもあって、何度かは断った。それでも、入口が偶像だっただけで、本当の私の中身まで好きなのだと繰り返され、そこまで言ってくれるならと当時の私は承諾した。
付き合ってから、違和感を覚える出来事はいくつかあった。
予定確認のLINEに返信をくれる前にネトゲをつけていた。LINEの返信よりもネトゲを優先するのかと問い詰めると、LINEに気づかなかったのは悪いけど、ネトゲのほうを優先していると思われるのは心外だとの返答があった。
まぁ私も早とちりだったかな、その時はそう思った。
お互いに平日は働いていて、彼は土曜も夜までネトゲをやりたいらしく、土曜の深夜から日曜しか私達は会うことができない。
とある日曜、14時頃にお互い目が覚めた。「あー、寝すぎたね」と私が言うと、彼の目覚め開口一番で放った言葉は、「は!?13時半過ぎてるじゃん!何で起こしてくれなかったの!?」。
流石に乾いた笑いが出た。どうやら、13時半から限定で出るアイテムのことを気にしていたらしい。週に7分の1もない私と居る時間ですら、頭の中ずっとそれかよ。私はあなたの母親ではないです。それだけ気になるなら自力で起きやがれ。
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「偶像ではなく中身を好きになった」
「ゲームを優先していると思われるのは心外」
言われた時は正直嬉しかった。しかし彼の取った行動は、あまりにそれらの言葉とはかけ離れていた。私との時間は、ネトゲをしないスキマ時間を埋めるだけの暇つぶしでしかないように感じられた。
「会っている時くらいはちゃんと対峙してほしい」
そう言って泣く私を放置して、彼はまたネトゲをしに帰っていった。「俺は涙で心が動く人間じゃないから」とまで言い放った。これはもう救いようがないと思った。
一緒に居る短い時間を大事にしたいというのは、そんなに贅沢な望みだっただろうか。
中身を好きになっただと? 私の涙を面倒くさがって、そのまま逃げたじゃないか。
結局、明るくて快活で自分より若い女と付き合いたかっただけじゃないのか。
今思えば、とんだ嘘つき野郎である。
仕事や趣味よりも私を優先しろと言うつもりは毛頭ない。生活していくには稼がないといけないし、私だって趣味の一人旅や野球観戦を制限されたくはない。
しかし、彼がそれをするとき、しきりに「面倒臭い」「やめようかな」と呟くのを何度も見てきた。私もソーシャルゲームを義務感で続けてしまった経験があるのでわからなくもないが、つまりどうであれ、趣味以下なのである。そして、トッププレイヤーとしてそこで稼いでいるわけでもない(なんなら私のほうが上手い)ので、当然仕事以下である。
つまるところ私の存在は、仕事でも趣味でもないネトゲよりも下だったのだ。
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もちろんこれは私の視点から見た捉え方であって、彼からしてみれば「そんなつもりじゃない」と言いたくなることもあるだろう。しかし、仮にそうであるならば、弁明することもできたはずだ。
確かに、弁明されたとて、私は納得しないかもしれないし、それが徒労に終わるかもしれない。ただ、誤解を誤解のままで放置されるほうが、私としては苦痛なのだ。
もしかすると、私の思い込みから放った言葉が彼を傷つけはしなかったか。あるいは、何も返答がないということはやはり私の思った通りだったのではないか。そんな、永遠に答えが出ない問いを脳内で堂々巡りさせられる羽目になるのだ。
ネガティブなことであっても、私はできるだけその都度思ったことを伝えてきた。関係を深めていくには、それも避けて通れないと考えていたから。
しかし彼は、その度に何の反応も示さず、決まってただ沈黙するだけだった。思い込みが間違っているなら、それを解こうとする姿勢だけでも見せるのが誠実な向き合い方だと思っていたが、どうやら私も彼に期待しすぎていたらしい。
人は誰しも、他人の考えていることを完全に把握することはできない。だからこそ、言葉なり行動なりで表現し、相手はそれを元に判断する。「何を言っても聞き入れないと思うから」と言って対話を拒絶するのは、大人の対応でもなんでもなく、ただの逃げだ。
ましてや、「何も言わないことで何かを感じ取ってほしかった」なんていうのは、ただの"察してちゃん"であって、あまりに子供じみている。
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ここまで憤れるのもおそらく、そんな男でも残念ながら好きだったからだろう。散々な悪口を書き連ねてきたが、感謝していることだって沢山ある。この怒りは、悲しみの深さだ。
自分から別れ話を切り出しておいておかしな話だが、結果的に別れることになった時、別れたくないと思った。
私は言いたいことを言ったけれども、相手の言葉は何一つ聞けていない。要は納得ができていないのだ。もし、「それなら仕方ないね」という形で別れられていたなら、おそらくここまで尾を引くこともなかっただろう。
他人に変わることを求めるのは傲慢だ。対話を拒絶される以上、分かり合う術もない。どう考えたって、長く続くはずがなかった。
それなのに、どうにかして続けられないかと、そんなことをどこかで思っていた。感情と理性が完全に正反対を向いていた。
ヨリを戻すつもりも全くない。いずれ時間が解決するということまでわかっているのに、その時間が経つまでの時間がとてつもなく辛かった。
6月、私の恋愛運はとても良いらしい。普段なら占いなんて信じるタイプの人間でもないが、今はそれだけが微かな希望だ。
気持ちも少しずつ落ち着いてきた。それでもまだ、ふとしたきっかけで負の感情はあふれ出す。悪いことは忘れていつか綺麗な思い出に変わると信じて、次の恋に備えるとしよう。