運がいいか悪いかの2択で考えると、私はおそらく後者に属する。
マイナス思考持ちであるが故にそんな風に捉えてしまう……というわけでもなく、あくまでニュートラルな気持ちで二十数年の人生を振り返ると、考えるまでもなく思う。

運は、決して良くないだろうと。

子どもの頃は、頻繁にケガに見舞われた。自転車の前輪に足の指が巻き込まれて爪が剥がれたり、足を引っ掛けて逆さまにぶら下がっていた鉄棒から落ちて前歯が欠けたり、体育の授業でただ走っていただけなのにいきなり骨盤にヒビが入ったりした。

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中学時代に好きだった人とは、両想いの可能性があったかもしれないのに、今ひとつ勇気を出せなかったせいで関係は静かにフェードアウトした。
高校では仲のいい友達とクラスが離れてしまったことがきっかけで、新しい教室に馴染めず不登校に陥った。そしてそのまま学校を辞めてしまった。
自動車教習所に通っていた際は、仮免許の実技試験で2度も落ちた。
社会人4年目のときには希望を持って転職に踏み切ったものの、ことごとく上手くいかず短期離職を繰り返す羽目になった。

初めての彼氏は、当人には申し訳ないが言葉を選ばずに言えば最低な男だった。あいつに本当の意味で自分の「初めて」を捧げてしまったことは私の一生の不覚だ。
2人目の彼氏にも、別れ際は散々振り回された。直接の関係があるわけではないが、別れた直後は家の鍵やら携帯電話やらをなくすなど、ただひたすらにツイていなかった。

不幸自慢をするつもりはないものの、自分の人生のイマイチ具合にはいつだって失笑してしまう。過去に起こってしまったことは変えられないから今更あれこれ言っても仕方がないが、「もうちょっと上手くやれなかったのかな」とため息は少なからず漏れる。

ただ、「私は運がないんです」がこのエッセイの主題ではない。ことごとくツイてない私だったが、とびきり幸運な出来事が1つだけある。本題は、ここからだ。

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私にとっての、たった1つの幸運な出来事。それは3人目の彼氏、つまりは現在の夫と出会えたことである。

彼とは、前々職の仕事の関係で知り合った。
ただ後々聞いて驚いたのだが、彼曰く「まりちゃんの第一印象ははっきり言って最悪だったよ」とのことなのだ。私のほうは初めて会ったときから「いいな」と思っていたのに、彼は「いけすかない女」と敵視していたらしい。

1つだけ断っておくと、敵視の原因は彼の誤解だったことが今では判明している。

そんなわけで最初のうちは全く噛み合っていなかったようだが、話す頻度が増えるうちにわだかまりは解消され、夜な夜な長電話をするような仲になった。「なんか、同じ匂いがするんだよね」と彼は割と早い段階で私に言った。言われた当時は「どういうこと?」といぶかしげに聞き返してしまったが、それでも漠然と共感はした。性格のタイプはまるで似ていないものの、根っこの部分に近しいものが存在しているような気がした。話せば話すほど、ジグソーパズルのピースが綺麗にはまるような心地よさを覚えていった。

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そうして私たちは恋人となり、一緒に暮らすようになり、去年夫婦になった。
ただ、結婚したからといって何かが変わったわけではない。強いて言うならば、変わったのは自分の名字と左手の薬指くらいだ。私と夫は、今日も変わらずくだらないことでけらけらと笑い合っている。

感情の起伏があまり大きくない私が、よく笑うようになった。
主張することが苦手な私が、自分の意見を言えるようになった。
自信のない私が、「ねえ、読んで」と自分の書いたものを堂々と見せられるようになった。

これらはあくまで夫に対して、という限定的なものだが、それでも私にとっては大きな変化だ。自分が自分のままでいられる相手、それが夫だ。

どこかおどけたような言動が終始止まらない人だけれど、私はそんな所が大好きだ。考えていることを包み隠さず素直に言葉にして、いつだって私の心を解きほぐそうと真摯に向き合ってくれる所も大好きだ。

夫はたまに、自信なさげに「ちっちゃい僕の隣に並ぶなんて、恥ずかしいよね」と呟く。でも私はその度に必ずこう言い返す。
「何言ってんの?私は君と手を繋いで外を歩くたびに、皆に見せびらかしたい気持ちだよ。『良いでしょ、すごく素敵な人でしょ』って」

ただのノロケと言われればそれまでだが、でも本心であることに変わりはない。
私は最高のパートナーを捕まえた。これは間違いなく、人生最大の幸運な出来事だ。