日常で、他人にときめく瞬間はありますか?
ここでいう、ときめく、とは異性としての魅力を感じる瞬間、というより「この人に話しかけてみたい」となるような、他者への興味を持つ瞬間のことです。
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私は、読書が好きです。出かける際には、カバンに本を必ず入れて持ち歩き、隙間時間に読んでいます。そんな私は、同じ電車に乗っている人が、たまたま自分の好きな作家さんの本を読んでいるのを見かけるとときめきます。
最近、特に強くときめきを感じたのは、自分が今まさに読んでいる本と、同じ作者が書いた本を持った人が、電車で座る私の前に立ったことです。
「私もその作家さんが好きで、今この本を読んでいるんです」 と、目の前に立つ見知らぬ人に話しかけたくなりました。
外出時に他人にときめくのは、そんな時です。
では、家にいるときは、というと、深夜に大声で歌っている通行人にときめきます。
私の住んでいるところは、閑静な住宅街なので、深夜になれば街灯以外にあかりはありません。コンビニや牛丼チェーン店などの24時間営業の店は、見渡せる範囲にはないので、夜の時間帯に家の前を通る人はほとんどいません。
そのため、住民が寝静まった時間帯に、家の前を通った人が大声を出せば、近隣に響き渡ります。近所迷惑になるので、普通の人であれば夜に大声を出しながら歩くことはないでしょう。
しかし、深夜に必ずいるのです。
我が家が面する通りを、深夜1人で大声で歌いながら過ぎ去る人が
深夜に起きていると、必ず外から歌声が聞こえる瞬間があります。その声の主は、いつも同じ人ではありません。わざわざ歌っている人の姿を窓から確認したことはありませんが、声質や歌い方が毎回異なるので、歌っている人が常に同じ人ではないとわかります。
共通するのは、みんなノリノリで、テンポの良い曲を歌っていて、夜という時間に遠慮することなく気持ちよく歌っている、ということです。
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こういう人に出会うと(実際は窓から歌声を聞いているだけで会ってはいませんが)、私はなぜかときめいてしまうのです。本来ならば、深夜に騒音をたてる近所迷惑な人、としてみなされる行為をしている人なのですが。
私は朝型の人間なので、夜更かしをすることはめったにありません。逆に、夜更かしをするとき、というのは、所属する研究室のゼミの本番前夜などの、いざ、という時に限られます。つまり、私が深夜の時間帯に起きているときというのは、追い込まれた時なのです。
それゆえ、深夜に外から声が聞こえると、「ああ、この人も夜まで起きて、頑張って活動しているのだ」と、共通点を見出して、ときめいてしまうのだと思います。しかも、その声がノリノリの歌声だと、 「人目を気にせず人生を楽しんでいるなあ」と、感動までしてしまうのです。私は夜、泣きながらゼミの課題に追われているのに、部屋の外には遅くまで活動して、人生を文字通り謳歌できる人もいる、という状況に励まされているのかもしれません。
深夜に静まり返った住宅街で、大声で歌いながら歩き去る人。そんな非常識な人に私は惹かれてしまっています。
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自分とまったく接点のない人が、自分とわずかな共通点を持った時に、どうやら私はときめくようです。
電車で出会った私の好きな本を読む人は、おそらく次に会う機会はないでしょう。けれど、自分と同じ本が好き、という共通点がある。深夜に見かける大声で歌う人も、私が部屋の中にいるかぎり顔を合わせる機会はないでしょう(公共交通機関が動かない夜に歩いているので、私とそう遠くない場所に住む人かもしれませんが)。けれど、みんなが寝ている時間に、自分と同じようにひとり起きている、という共通点があります。
そんな相手すら気が付かない、自分だけが知った共通点があると、心が動きます。もしも、この電車で本を読む人や大声で歌う人が、自分の知る人であったならば、ときめきとはまた違う感情を抱いていたことでしょう。
私が大学院を卒業するまで、残すところ半年となりました。ゼミや修士論文もいよいよ大詰めとなります。きっとこれから、今年の上半期よりも、夜更かしが必要になってくるでしょう。
そうなった時もまた、夜に気持ちよく歌う人が通り過ぎるのを、モンスターエナジーを片手に楽しみに待ちながら、課題を倒していこうと思います。