東京は、子どもの頃からの憧れの場所だった。地方出身者の私は、テレビで見ている世界に憧れを持っていた。取り上げられる最新の店、トレンド、カルチャーすべてが揃う街だ。行きたくても行ける場所ではなく、新幹線を使わなければ行けない場所。

夏休み等の長期休暇を利用しないと行けない場所だった。滅多に行けないからこそ、家で東京への思いをつのらせていく。おとなになったらかならず東京へ行くんだ、と決めて、そればかりを考えていたこともあった。

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地元では、大学卒業までを過ごした。大学で東京や関東近郊へ引っ越し、一人暮らしをするはずだったのだが、予想どおりにはならず。自分の努力不足としか言いようがないものの、その現実に嘆くこともあった。スマホが普及すると、SNSが情報の基本となった。タイムラインにあげられる情報が、関東の番組に準じている。

もちろん、私が住んでいた地方でも放送はされている番組がほとんどだったが、なかには関東ローカルで放送されている番組もある。よりによって、関東ローカルで放送されている番組がトレンドにあがる週末のSNS。番組は見られず、番組の存在を認識するまでに数年を要するほど情報難民にされていた私は、やはりキー局の電波が入る地域に住みたいと思うようになっていた。

就職が関東で決まり、上京することになった。やっと自分の意志で自分の人生を描くきっかけを掴めたようで嬉しかった。関東、というのも、就職先は東京ではなかったからだ。それでも、キー局の電波が入る場所で社会人をスタートさせられることがとても嬉しかった。

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迎えた週末。ずっと名前だけで存在を確認できなかったあの番組を見ることができた。始めて自分の目で番組タイトルを見て、SNSでトレンド入りしているのを追いながら視聴した。とても感動した。ずっと見たかった番組。情報番組だけれど、最先端を追えている感覚になれた。私が関東に来た意味を始めて実感したのだ。

今もその土地に住んでいる。最近、環境がガラッと変わり始めたこともあり、東京がさらに身近な存在になっている。都内へ行くことも増え、都内に住む可能性もなくはないと思い始めた。

これまでは、東京は遊びに来る場所ではあるものの、住む場所ではないと思っていた。忙しなく人たちが行き交う街中。時間を気にしない賑やかさ。田舎出身の私が求める日常や、静寂の心地よさを消してしまうのではないかと思うこともあった。未だに、日が傾いた夕方の山手線に乗ると、どこか哀愁が漂ってくる。今日の終わりを感じる切なさを実感するのだ。

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今までは、ひとりの観光客や遊ぶ場所として私の中に存在していた東京。おとなになり、自分の人生を生きるようになった今、子どもの頃の憧れが現実になっている。さらに理想に近づいているのが今だ。引っ越さずともこのままでいいと思っている反面、いつかは東京で一人暮らしも悪くないと思い始めている。

東京は何かと便利だ。それは変わりない。いつまでもすべての最前線を行く場所ではあるが、私との距離は変わりつつある。以前よりも身近になっているのだ。まだ生活しようとは思わない。東京という街に馴染もうとまでは思えていないが、仕事や遊びで東京へ行くことが増えた分、東京へ行くことに抵抗がない。

電車で行ける距離、長めの移動時間も当たり前になってきた。この時間をどう有意義に使おうと考えることもある。なんなら、このエッセイを書いているのも電車のなかであったりする。

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昔とは東京との感覚がガラリと変わっている私。これからもっと身近な存在となり、私の人生に関わってくれたら嬉しい。東京=渋谷みたいな感覚が残っており、すべてがきらびやかで忙しないというイメージがあるけれど、実際はそうではないだろう。

いろんな駅に降り立つことがあり、その土地を見ていて思う。いつか自分が住みたいと思える地域が必ず見つかると。そのときに迷わず住めるように、今を精一杯頑張ろう、と。これからの希望を見いだせる場所にもなっているみたいだ。