私の「憧れ」の先にあったもの。
それは「恋」だった。
少女漫画でよく見かけるような先輩の部活姿に感銘を受けて、次第に恋心を抱いていく純愛……とか。イケメン先生に憧れて、テストを頑張って褒めてもらう!みたいな恋愛ストーリーとか。そういったキラキラした出来事ではなかったけれど、実際に私は「憧れ」から次第に「恋」を募らせていった。
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私の恋人は大学教員で、the 勉学ができる人である。論文も毎年のように執筆し掲載されて、科研費も採択されて…といったハイスペックの研究者だ。
私は大学で多くの授業を受けてきたけれど、その人たちの中でもズバ抜けて頭がよく、コミュニケーションが取りやすい人だった。
大学教員の講義に対する態度にはバリエーションがあり、事務的に授業をする人や「ここにいる人たちには単位あげます」と言ってしまう人、分け隔てなく接する人などがいる。
彼はどんな質問でも答えてくれる優しい先生で、多くの学生から人気があった。講義もとても面白く、一人ひとりに真摯に対応している姿がとても印象的な先生だった。
研究者は大学教員になると、事務仕事が多くなり、自分の研究まで手が回らなくなることが多々ある。また、卒業論文を指導する時間もあるため、常にカツカツな状況である。
そのような状態であっても、彼は学生のフォローアップを必ず行い、論文を書き、科研費で研究を行っていた。
その当時は恋人ではなかったものの、私は彼の研究者としての姿勢や人当たりの良さに憧れた。
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「どうやったらあの先生みたいになれるだろうか」と何度考えたことだろう。私と彼との専門知識の差はまさしく月とスッポン。私は必死に図書館で本と論文を読み漁った。しかし、書籍を読めば読むほど、議論すればするほど、彼との知識の差が歴然と現れてしまい、悔しかった。
でも一方で彼との議論は「憧れの先生だから、このまま勉学を頑張るぞ!」というモチベーションにもなった。
議論を複数回続けていくうちに、ふとした雑談で彼が自分のことを話し始めた。おすすめの勉強方法や出身地の話などごちゃごちゃした内容だったが、その雑談を聞く度に「先生のことをもっと知りたい」と思うようになった。
これがおそらく、「憧れ」が「恋」に変わった瞬間だったと思う。
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別に彼は私だけ特別に扱ってくれたわけではなかった。他の学生さんとも講義終わりに議論し、参考書籍をあげていたりしていた。でもその度に私の心はモヤモヤしてしまい、「私ももっと先生と話したいのに」とか「あの学生さんはいいなぁ」とか、羨みや嫉妬の感情を抱いたこともあった。当時は彼を想う気持ちが「恋」とは分からずに、必死に恋愛の本を読み漁っていたが、今となっては懐かしい思い出である。
ただそんな彼ともなんやかんやあり(他のエッセイを参照)、今は晴れて恋人同士になったわけだが、今でも私は彼に「憧れ」ている。
これからも彼を尊敬し、憧れを抱きながらますます好きになっていくんだろうなと、パソコンに向かう彼を見ながら思う。