彼からのキスやハグをくぐり抜けてやっと眠った0時。
いつもならもっと早い時間に寝るから、すぐに眠りにつけるはずだった。実際、眠気は襲ってきた。なのに、その日は頭だけどこか冴えていて、眠れなかった。
机の上に飾ったドライフラワーを見上げて、それと同じタイトルの曲を思い浮かべた。次の日、正確にはもう当日だが、私は4年付き合った恋人と別れようとしていた。
◎ ◎
親友と彼氏の話をしていた時は、彼女が私に同調してくれることもあり、思い返すほどに次々と気に触ることが思いついたものだったのに。よく、今まで許してこれたよなと自分でも感心するほどだった。
写真だって消せた。前に付き合っていた人との写真はいまだに1枚だって消せていないのに、100枚以上の写真を次々に消せていた。
手放すとなれば惜しくなるのか。いつか、前の恋人に振られた時に自分に言い聞かせていた、「振った人は自分を愛してくれる人を失ったけれど、振られた人は自分を愛してくれない人と離れただけ」という言葉が、今度は別の意味で自分に重くのしかかっていた。
彼は人としてはとても良い人なのだと思う。意見が食い違っても感情的になることなんてないし、遠距離でも浮気の心配なんて全くさせず、むしろあまりの一途さに失礼ながら時々不気味になる程だ。
でも、私の恋人としてはどうなのだろう。決して乱暴ではないが、言葉選びが雑な人だった。人の感情に寄り添えない人だった。良くも悪くも能天気な人だった。
◎ ◎
どんな仕事に就きたいとか、大学で何を専攻したいのかとか何か考えてることはないの?と水を向けた際に、
「今考えることじゃないや」
と言ってのけた。自然に聞き出すために私が自分の将来のことについて話した後だったのに。被害妄想なのかもしれないが私の考える将来ごと、“今考えることじゃない”と言われた気がした。
私が悩みながら、苦しい思いをしながらも続けている仕事や茶道の話をした際にも彼はのたまった。
「そんなに辛いなら辞めればいいんじゃない?」
あまりに幼稚で、短絡的に思えてならない。そもそも、辞めたくないから私は悩むし苦しいのだ。
1人で抱えて別れるって選択をする前に、俺に言って欲しかったと、別れ話を切り出す私に彼は言ったが、話から逃げたのは彼だ。
もちろん、私にだって非はあるはずだ。彼が逃げかけても根気強く話せばよかったのかもしれない。細かいことをいちいち気にしないで水に流せばよかったのかもしれない。でも、素直にそうは思えない。
彼なりには誠実だったのだろう。でも、「なつめさんとのことだけを蔑ろにしたわけじゃなくて、俺は自分の将来も何もかも、全部、何も考えていなかったんだ」そんな情けない弁解をする彼の隣で、私はこれからも笑っていられるだろうか。
◎ ◎
彼はとても良い人だと思う。恋人としても、良い人なのだと思う。でも、私の恋人としては、誠実さに欠けていて、あまりに子どもに思えてならない。
やはり私は、私を愛してくれる人から自由になろうと思う。