湘南の人たちはなぜか下の名前で呼ぶ。今の私にとって名字は飾り
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私は名字が嫌いだ。
名字は親や祖父母と共通するものであって、親族と確認するものだと思っている。
私は昔から自分の名字に違和感があったり、しっくりもきていない感じがする。だいたい小学生くらいから、そう感じている。感じ始めた時期から、両親の喧嘩が多く離婚話もでたくらい。結局、母が勢いで言っていただけで離婚はしていない。ただ離婚したところで、母方の名字になることを全く想像はできなかった。
何度かインターネットで名前診断をしたことがある。何度、診断しても結果は、おみくじでいうところの凶であった。父がつけてくれた名前と名字の相性が悪く、名前だけだと大吉レベルなのだ。
ある時、母にこのことを伝えた。すると母は「女の子はいずれ名字が変わるからいいんだ」と言った。私は結婚するまでの数十年をこの名字で生きていくのに、その捉え方でいいのかと疑問に思ったが、当時は名字を変えるためには両親が離婚するしかないと思っていたのでなにも言い返せなかったし、言い返す言葉も見つからなかった。
中学はフリースクールだったので、名字で呼ばれることはほぼなかった。フリースクール入学時に自己紹介タイムが必ずあって、その時に下の名前で呼んでくださいと言っていた。自然と隣のクラスの子たちや先輩や後輩、先生たちも下の名前で呼んでくれた。
高校は私立に行って、女子や後輩たちは下の名前で呼んでくれていたが、男子たちは名字で。部活もクラスも一緒な男子は何人か下の名前で呼んでくれていた。彼らからすると、当たり前なんだろうけれど、やっぱり名字で呼ばれることに違和感があったが、3年も一緒にいたら自然と慣れた。
大学も私立に行ったが、なぜか男女問わず、元から下の名前で呼んでくれて少し嬉しかった。名字で呼ぶのは教授くらいで、そんなに違和感なく過ごせた。
ただアルバイトを始めると、社会的に関係性的に名字で呼ばれる。ごく普通のことなんだけれど、やっぱり違和感があって。でも、働き続けるためには慣れるしかなかった。
アルバイトを続けているうちに、スイッチを切り替えると、そんなに違和感がなくなり、次第にアルバイトでの私のニックネームなんだと思うようになった。その方が心が軽くなるし、アルバイトも楽しく続けることができて、仕事もできることが多くなっていった。
しかし、初めてのアルバイト先が閉店することになって、自分に合う職業ってなんだろうと思い始めて、いろんなアルバイトをした。
どこも最低でも3か月以上は続けていたが、てんかん発作で休むことが多くなったり、うつ病が発覚してからは出勤することさえ難しい日もあって、精神科に入院することになってと、どんどん生活が変わった。
精神科に入院しているときは、看護師さんにお話をして、名字で呼ばれるのがどうしても嫌で、下の名前で呼んでほしいとまでお願いしていた。だからか、精神科に入院している時は思っていたより心が軽く過ごせていた。
退院後、アルバイトに復帰してからは前と同じようにスイッチを切り替えるようにしている。そして、何回か引っ越しをして、湘南に辿り着いた。
湘南の人たちは、なぜかみんな下の名前で呼ぶ。むしろ、名字を知っている人はいないのではないかというくらいで、私も湘南の友達や知人たちのことを下の名前で呼ぶことが多い。
湘南に来てからは、名字をさほど気にしなくなった。今年の1月に分籍届を出した時、名字変更申請をしようかと考えたが、今いる環境では不必要かと思った。
いまだに、母だった人から連絡が来ると、「名字嫌いだな。名字が一緒であることがしんどい」と思うことがある。
どこかで、早く名字を変えたいとも思って、誰かを好きになってみたりするが、結局は想像がつかない。今の私にとって、名字はただの飾りだと思っている。
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