「頑張って生きていこう」

私にはそう思える匂いが1つある。
それは、御香、線香の匂いで、私の思い出の匂いである。

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私の祖父は、私が小学校1年生の時に亡くなった。
私は祖父が大好きで、祖父の膝の上に座るのが大好きだった。
兄弟みんなで祖父の膝の上を取り合うくらいだった。
祖父も私達孫にはすごく優しく色んなものを買っては母に怒られたりしていた。

祖父と乗る軽トラックの車が大好きだった。
祖父の車はいつもタバコの匂いがしていたけれど、今となっては少し不快に感じるタバコの匂いも、そこまで不快には感じなかった記憶がある。

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2人で朝、線香を置いて、鐘を鳴らすこともしていた。
誰よりも真剣な顔で手を合わせて…
いつも笑っていた。

「お菓子を買いに行こう!」

また、母や祖母に怒られるのにそんなことを気にせず無邪気に笑うその笑顔が大好きだった。
そして、2人で近くの商店に行って怒られる。そんな繰り返しだった。

でも私の祖父の記憶はそれほどしかない。
もっと一緒にいて、もっとたくさん話したかった。
大好きな祖父ともっと色んなところに行き、思い出を作りたかった。
大した思い出ではないかもしれないけれど、信じられないかもしれないけれど、祖父を好きな感覚を自分の体が覚えているようなそんな気がしている。
そのことが影響しているのだろうか。
祖父のお墓参りに行くといつも今でも泣きそうになる自分がいる。

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私が体調を崩し、もう生きていくことが辛くなり、生きることを諦めたくなった時。
もう、楽しみが無く同じ日々の繰り返しに絶望していた時。
みんなでお墓参りに行く機会があった。
それまでは中々いけていなかった私も今回は参加することにして、みんなと一緒に向かった。

祖父のお墓の前についた時。やはり泣きそうになった。
日常に疲れていたことも災いしていたのかもしれないけれど、やっと一息つけたようなそんな気がしていた。

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その時、線香を置いていたので、祖父と毎日していた線香を置く記憶が蘇ってきた。
懐かしいあの匂いがした。
それと同時に祖父との思い出がたくさん蘇ってきた。
幼い記憶の中に唯一残る優しい笑顔。
膝の上に座ったときの温かさ。

それらの感覚も自分の中で思い出すことができた。
そんな祖父の笑顔を思い出して、今も少し微笑んでくれているような気がした。
その時、「もう少し頑張ってみようかな」と思うことができた。
今、もし私がここで諦めてしまったら、祖父だけでなく家族に悲しみを与えてしまう。
それだけは避けたい。改めてそう思うことができた。
祖父にたくさんもらった優しさを多くの人に私も与えていかないといけない。
今はそう思えるから。

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私にとっての忘れられない匂い。
それは祖父と過ごしたたった数年間という短くて、でも何より大切な思い出の時間を思い出させてくれるそんな線香の匂いである。
隣で線香を置いて真剣に手を合わせるそんな祖父の姿を忘れることはない。

「何を思っていたんだろう」

優しい人だから、家族皆が楽しく暮らせるように見守っていてくれるように伝えていたのだろう。
だから、私も祖父のところに行ったときには「いつも遠くから見守ってもらえるように」と心で伝えている。

そんな祖父の、楽しく幸せに暮らしていく。そんな願いを叶えるためにも私は今もっと頑張ろうと思えるから。
だから私には、この御香、線香の匂いが必要で大切な一つの私を支えるそんな力になっている。

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そして私は今も、祖父との時間をずっと忘れることはない。
本当に大切で、誰よりも家族思いな祖父の思いを引き継いで家族を大切な人を幸せにしていくために…