夫婦別姓には反対の立場の私は、男性にも名字に関する意見を聞きたい

3年前、私は結婚して名字を変えた。夫の姓になったのだ。話し合いという話し合いはなかった。
「俺の名字でいい?」「いいよ」。これだけだ。こうもすんなり夫の姓を名乗ることに落ち着いたのは、私が自分の名字に特段のこだわりがなかったことはもとより、私の両親も特にこだわりを持っていなかったからに他ならない。
友人の中には、跡取りがどうの、お墓がどうのと、いわゆる「婿取り」しなければならない人もいた。私には弟がひとりいるが、跡取りではない。もしお付き合いしている人から婿に来てほしいと言われても、うちの両親はどうぞどうぞと差し出す方針とのことだった。
そもそも結婚自体をあきらめているようだったが。私が結婚できたのも奇跡に近いと、いまだに言われる程である。そんなわけで、私が結婚するにあたって、相手さえいれば名字のハードルはなかった。
結婚後の手続きに関してはこの上なく面倒だったが、ネット上で手続きできるものもあり、思ったほどの煩雑さはなかった。クレジットカードや引き落とし関係は、少し面倒だと思った記憶があるが、住所変更と何ら変わらないとすら思った。
新しい名字にはなかなか慣れなかった。電話で名乗るのも気恥ずかしかった。それはきっと、結婚したんだなという実感からくるものであったと思う。それは小学校から中学、高校に進学して、あだ名が変わったときと同じような感覚だった。
これまで30年以上共にしてきた名字が変わったわけだが、これからは両親とは違う名字になるんだな、というほんの少しの寂しさはあれど、それほどの喪失感はなかった。つまり、私の名字に対するこだわりなんてその程度なのだ。どんな名字でも、私は私なのだ。
それはさておき、私は夫婦別姓には反対の立場にいる。そもそも、現在の制度で男性か女性かどちらかの姓を名乗ると選べるのだから、十分自由は保障されているはずだ。仮に子供がいないのであれば夫婦別姓でも問題ないだろうが、子供が生まれたとき、その子の名字はどうするのか。
お互いの「家」を譲れず、名字を譲れなかったのであれば、子供が生まれても名字の取り合いになるかもしれない。生まれてから決めるというのでは遅いと思う。
などといった制度の問題点の他に、個人的に反対している理由がひとつある。私は、名字は他者に「家族という一団体」を示すものであると思っているからだ。佐藤さんチの奥さん、佐藤さんチの赤ちゃんなど、所属先を表すものだと思っている。いわば会社名のようなものだ。なので、たとえばお隣さんが別姓だと私は少し戸惑ってしまうと思う。ならば一向に籍を入れなければいいのに、とすら思ってしまうのだ。
夫婦別姓について少し検索してみると、「女性ばかりが改姓しなければならず不公平だ」との意見を見聞きする。知り合いの男性が女性の名字になったとき、「奥さんは一人っ子なの?」と聞かれていた。私自身も思った。しかし彼は、「奥さんが名字を変えたくないから自分が変えた」と言ったのだ。私自身も、結婚したら女性が名字を変えるのが普通、という偏見を持っていたことに気づかされた。
女性が男性の名字にするのが当たり前、結婚は女性に負担が多い、という認識。このエッセイも、対象は「女性」のみだった。私は男性にも、名字に関する意見を聞いてみたい。私は夫婦別姓には反対の立場だが、男性が女性の名字を名乗ることが増えていけばいいとは思っている。
あのとき、結婚の話を進めるとき、もしも私が「私の名字になってほしい」と言っていたら、夫は「いいよ」と言っていただろうか、と時々考える。
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