カフェで働いて3年目。これまでバイト仲間とカラオケや遊園地に行ったり居酒屋で飲んだりした。

仕事中は、時にお客様の波に圧倒されて、注文されたドリンクをせっせと作る。タイムカードを打つ時は決まって「今日もお疲れ様」って笑い合った。大学のサークルの仲間とも、学科でお昼ご飯を食べる友達とも違う。私たちはあくまでも、利益を生み出すビジネスライクな関係だ。だけど、シフトが被るとざっくばらんに話す。最近のサークルのあれこれとか、パートの主婦さんの噂話兼愚痴とか、兄妹の話、そして、好きな人や付き合っている人とのエピソードもシェアした。

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駅の改札の前、もう帰るかという流れ。恋愛話は大体誰かが決まり文句を言って終わる。「まあ、ここでは恋愛ないから」「あったらやばくない?」
どんな話も一瞬で広まってしまう狭いコミュニティだ。なんでこの話、店長と社員が知ってるの!?ということがよくあった。
私がこの会話にヒヤッとし始めたのは3か月前。私はバイトで心を許していた男の子に告白された。

うわぁ、告白させてしまった、これが正直な感想だ。何となく一緒にいて楽だな、と思っていた矢先「考えて欲しい」と真剣な表情で言われた。私は中高女子校で、今まで付き合った人は誰もいない。この人が彼氏?付き合って何がしたいの?そして、バレたらめんどくさいって彼も分かり切ってるはずなのに、何考えているの?と思った。「え、これ内緒で付き合うってこと?」思い切って聞いてみた。「言う訳ないじゃん」即答だった。なんか寂しいなと思った。特に仲の良い3人の同期とは、これまでお互いに何でもシェアしてきた。今の秘密を抱えている感じは背徳感そのものだ。

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「ちょっと考えさせてほしい」そう言って分かれた。翌日、大学の友達に話してみると、ニコニコで聞いてくれた。それが何より新鮮だった。これまで「そんな人と飲みに行くの?その人ぜったい本気じゃないよ?」と忠告を受け、自分も首をかしげたくなるような男性と接してきたからだ。そして話しながら気づいたのは、私は彼を、とても柔らかい優しさを持っている人だと見ているということ。この人は余計な心配をさせない。

あれ、もしかしたらバイトでバレるとか、付き合っていることを好き勝手言われるかもしれないことって、大したことじゃないのかもしれないな。そう思い立って、ちょっと話そう、と言ったら最寄り駅まで来てくれた。

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付き合うなら同期3人には言いたいと思ったこと。元カレとかいないし、今まで良い恋愛をしてこなかったから面白そうのテンション感で付き合えない。付き合って、触りたいとか触れられて嬉しいと思わないかもしれないこと。雑談もしながら、深夜2時まで改札横のベンチで彼にぶつけた。雨が降ってきて寒さが染みた。返ってきた言葉は、「大切な人が大切にしたいことは守りたいから、1個ずつモヤモヤとかわかんない感じとかどうしたらいいのか考えよう」だった。漫画とかドラマの“キュン“じゃなくて、頭が揺さぶられるくらい嬉しくて温かい気持ちに浸った。

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こういうことか、好きって。私もちゃんと彼が好きだ。そして、もしバレても、きっと私達が付き合ったことを言わない判断をきっと理解してくれる。彼女たちはそういう仲間だ。
またどこかで、思い切って自分の考えをぶつける日が来るかもしれない。彼の温かい優しさはしっかり受け取って、話し合いから逃げない誠実さだけはいつまでも持っていたい。私たちのペースで進めていきたいから。