私はダンスを習っている。その発表会まであと1週間を切ったある日のことだった。
衣装を着てリハーサルをすることになり、私は自分で用意した衣装に着替えようとした。細かいひだが沢山ついた足首まであるロングスカートに同じく白のノースリーブ。こだわって選んだし気に入っていた。すると突然、「これ着てみない?」とある衣装を勧められた。それは半袖の白シャツに紺色のミニスカートだった。ミニか……。一瞬ためらった。なぜためらったかというと、私は脚にコンプレックスがあるからだ。
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高校生までの私はいわゆる優等生だった。自分にノルマを課し、それを達成することが楽しかった。しかし、真面目なところ以外何も取り柄がないような気がした。自信のなさから、「本当に細いね」「痩せてていいな」という褒め言葉なのかもよくわからないものに縋った。細い脚を見せつけるようにミニスカートを穿いた。私はあなた達とは違って自己管理できてる。そんな優越感で心を保っていた。
しかし行き過ぎた自己管理によって摂食障害になった。拒食症から過食症になって、全てが裏返しになった。毎日食べるのをやめられず、2ヶ月で10キロ太った。学校に行けなくなり、勉強についていけなくなった。同級生は受験勉強を頑張って、いわゆる「いい大学」に入って大学生活を楽しんでいる一方、自分は浪人して滑り止めの滑り止めの大学に入った挙句、留年までする羽目になった。何かがおかしいと思った。そのうち自分の姿や現実を受け入れたくなくて、逃げるために自傷行為をするようになった。自己管理できない自分は生きる価値がないから傷つけてもいいと思った。
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自分を傷つけ、現実逃避するうちに「これは本当の私じゃない」と思うようになった。本当の私はこんな体型じゃないしだらしなくない。本当の私は痩せてて可愛くて自己管理できて、ミニスカートを穿いて颯爽と歩くのだ。痩せれば、痩せさえすれば元の私に戻って全て解決するはず。しかし実際は痩せようと焦るほど上手く食べられなくなった。「痩せれば上手くいく」という希望が「痩せないから上手くいかない」という呪いになった。1年が経ったが、体重は増えるばかりだった。傷跡も増えていった。
傷跡を見て不快に思う人も多いだろうし、何より今の脚のままミニスカートを穿いたら、自己管理できない自分や現実逃避する自分を許してしまうみたいだ。
一方、そのスカートはとても素敵だった。それを穿いた理想の自分が一瞬見えた気がした。彼女は華奢な手脚を見せて笑っている。
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しばらく迷ったが憧れが勝って、勧められるままに穿いてみた。思いがけずよく似合った。私らしいとさえ思った。どうしてもこれがいいと思った。
そうして迎えた本番、私はミニスカートを穿いていた。
踊り終わって、良かったところも改善点も色々浮かんだけれど、今の等身大の自分が全部出たという印象が大きかった。そして、それはあまり嫌ではなかった。
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本当も仮もなくて、傷跡も歴史も含めた今の私がただ一つの等身大の私なのだと思う。
ミニスカートが似合うのも、真面目なところもだらしないところも私。
今まで乖離していた自分が少し重なった気がした。