「別れたくないのは、その、なんというか、私の体を手放すことになるから?」
これは元彼との最後の電話のときに、私が言ったこと。
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突然、もう好きじゃない、でも別れたいわけじゃない、と言った彼に、そう聞いたことがある。もう好きじゃないのなら、なぜ別れたいのか。体目当てか、なんて言いたくなかったし、それなりに理由があるならきちんと知りたかったから、慎重に聞いた。しかも別に大してきれいな体でもないはずなのに、なんとなく、これまでの彼の私への接し方で色々と察してしまって、そうあってくれるなとは思いながら、聞いてしまった。実際には、もっと言葉を濁して、やんわりと聞いてみたけれど、だいたいそんな内容だ。
「まあ、うん。そうね、そんな感じ」
私が濁したせいなのか、あちらも煮え切らない返答だった。
そのときはなんて答えたらいいかわからず、ずるずる時間は過ぎて、幾日か経ったあと、結局耐えられなくなってしまったからお別れした。ただ、今となっても、私はずっと、恋愛において自分の体をどういう位置づけにおいてみたらよいのかずっとわからないままだ。
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私にとっては懐かしい話だけれど、その人には、お付き合いをしてすぐ、胸のサイズを聞かれた。なんて答えたらいいのかわからなくて、EかFが多いけど、そんなの使ってるブラジャーのメーカーによって変わる、とありのままを伝えた。
胸のサイズが期待値に達したのか、彼はそれを聞いて喜んだ。いわく、男の人はとにかくおっぱいが好きなのだという(父も、私が小さい頃ふざけてそんなことを言っていた。男はみんなおっぱい星人だと)。
しかも、その人は、私の胸を触りながら、「大きい方がやっぱりいい」とときたま言っていた。なんだかそこに私以外の誰かも存在するような物言いだなと、引っかかっていたけれど、女性の体に対する解像度なんか経験値でしかないだろうしそういうものかとも思った。
告白は相手から、付き合い出した最初こそ、好きだ、かわいいと言ってくれたけれど、そういうこともなくなって、とうとう好きじゃなくなったと言われてしまった。それなりに好きになって尊敬していた人だったけれど、向こうが好きじゃないなら、こちらが拘束してもどうしようもないので「それならしかたない、別れよう」と言った。なのに返ってきたのは、別れたいとかいうわけじゃない、という不可解な返答。そして、話は冒頭に戻る。
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このできごとは、私にとっては軽くトラウマなのだ。これから好きになるかもしれないという見込みがあるとかではなく、好きじゃないのに体に触れたいから付き合うとか付き合い続けるということができることにも、そもそも好きじゃない人間の体に触りたいと思う人がいるということにも、絶望した。
ちゃんと考えれば、世の中はそんなきれいなものじゃないことくらいわかるはずだが、そのとにはなんだか無性に辛くなったのだ。
もちろん、恋愛関係において、体への欲求やつながりがある程度重要なものであるというのは理解できなくはない。なんならむしろ、友情と恋愛の境目を決めなくてはいけないとしたときに、性欲を無視して議論することはできないだろう。
それでも私は、性的な関係には、プラトニックなままでも愛が成立する関係が内包されていて必須であってほしいと、子供めいた理想を持ち続けているのだ。