私にとってクリスマスは特別な日でもなかった。
高校1年のクリスマスは部活の全国大会前日で部員一同死んだ目をして大会の準備、2年の時は全国大会とテストの疲れでダウン、3年の時は共通テスト直前でひたすら勉強。
大学1年のクリスマスは年内最後の授業があったため帰省もできず、友達は授業直後に帰省してしまうし彼氏には振られてしまったのでクリぼっちが確定してしまった。
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「どうせ幸せを共有する相手がいないならせめて誰かの幸せを作りたい」そう思った私は普段土日にしか入れないシフトをクリスマスの授業後にも入れることにした。
その日のバイトは滑り出しから悪かった。大学からバイト先のファミレスに向かうバスを間違えてしまい、凍てつく寒さの中を走ってバイト先に飛び込んだ。
ギリギリ間に合って安心したのもつかの間、平日の割に店内が賑わう一方、従業員は普段の人数で、ホールは司令塔であるパート長がおらずベテランパートさん3人と初心者の学生バイト2人だったので人手不足気味。
当時の私は仕事が遅くてパートさんにもバイトの高校生にも怒られてばかりで、その日いたパートさんの1人(ここではSさんと呼ぶ)には注意されることが多かったのでミスをしないように顔色をうかがいながら働いていた。
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平日のディナー帯の忙しさや段取りを知らない私はあたふたしていたが、かろうじて大きなミスなくこなしている……はずだった。
ピークの時間になると立て続けに注文が入って伝票が10枚ほどずらりと並び、調理を1人で回していたベテラン料理人のKさんのイライラは増していた。
この店では料理提供前に伝票のバーコードをスキャンして提供時間を記録する仕組みで、Kさんからは「こちらから声をかけなくてもいい感じにスキャンしておいてね」といわれていた。しかし、あるところでスキャンするとなんと規定の提供時間を1分オーバーしていた。
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それをみたKさんのイライラは爆発。「何やってんだよ!」調理場から出てきたKさんは並んだ伝票を一気にスキャンしていく。「こんな忙しいのに俺1人で回せねえよ!ホールはキッチンのこと考えずに注文入れすぎなんだよ!さっき遅れる前にスキャンしとけっていっただろ!使えないな!」怒声をあげるKさんを前に私は半泣きで何度も謝り続けた。
すると、Sさんがキッチンに入ってきた。先ほどの会話を聞いていたようで、怒りを露わにして調理場につかつかと入っていった。「そんな言い方はないでしょ!ネキさんに謝りなさいよ!」そしてKさんに見えないところまで私を連れて行くと「あの人のいうことなんて気にしなくていいからね」と言ってくれた。
もたついている私に代わっててきぱきと提供準備を済ませると、颯爽とホールに戻っていった。いつもあんなに厳しいSさんがかばってくれるなんて。涙が出そうになるのを必死でこらえた。
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その日はそれ以上の大きなミスもなくバイトを終えた。
雪道を20分走った後でホールを動き回り、幸せそうなカップルの大群はまぶしく、おいしそうなご飯はまるで飯テロ、そして怒鳴られる。散々なクリスマスとなってしまったが、その日を境に少しだけSさんと打ち解けることができた。
この日のことは後日パート長にも伝わり、女性パートさんたちの語り草となって当事者である私もその輪に入れてもらえた。Sさんに怒られてばかりなのは変わらなかったが、愛の鞭だとわかったのでへこまず受け入れることができるようになった。
あのクリスマスに戻れるなら、私はどこを修正するか。こればかりは1年たった今でも考えものである。