今日は雨。それでも「好日」雨の日を楽しむための小さなヒント

雨の日は、昔から少し苦手だった。セットした髪の毛はすぐに崩れてしまうし、じっとりとした空気が肌にまとわりついて、気持ちまで沈んでしまう。気圧の変化で体調も崩しやすくなるし、外に出るのも億劫になる。それでも――雨の音だけは、昔から好きだった。耳を澄ましていると、心が洗われるようで、嫌な気持ちをまるごと洗い流してくれるような気がするのだ。まるで、静かに優しく撫でられているような、そんな音。
雨の日は相変わらず苦手だけれども、一冊の本に出会って、雨の日への考え方が変わった。森下典子さんの「日日是好日」だ。もう亡くなってしまったけれど、樹木希林さん主演で映画も公開されている。何度も何度も読んで、何度も観た大好きな作品だ。この本には、茶道を通して見つけた日常の美しさが綴られている。特に心に残っているのが、タイトルにもなっている「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」という禅の言葉。今日という一日は、もう二度と来ない。晴れの日だけが良い日なのではなく、雨の日も、曇りの日も、それぞれがかけがえのない一日なのだということ。
その言葉が、雨の日をまるごと肯定してくれるようで、私の中の雨への印象は、その作品を境にぐるっと変わった。雨の日だからこそできることがある。お気に入りのマグカップで珈琲を淹れて、読みかけの本を開く。ゆっくり深呼吸をして、窓の外を眺める。軒下から落ちる雫、葉の上を転がる水滴、アスファルトを打つ雨音。そんな何気ない風景に、美しさを見つけられるようになったのも、この本に出会ってからだった。そして、雨の音を聴きながら妄想するのが、私は好きだ。もしかしたら、この雨は誰かの涙なのかもしれない――そんなふうに考えてみる。空の上で、見えない誰かが泣いている。声にならないまま溢れた想いが、ぽつりぽつりと地上に落ちてくる。悲しいのに泣けなかった日。悔しくて叫びたかった夜。そんな過去の自分に、雨はそっと寄り添ってくれていたのかもしれない。
雨が降るからこそ、虹を見ることができる。雨が降るからこそ、花は咲くし、木々は生きていける。誰かにとっては憂うつな雨も、同じ世界に生きている別の誰かにとっては希望の雫なのかもしれない。天候の話だけではない。きっと、人生も同じなのだと。そう思っている。
晴れている日の方が少ない。どしゃ降りの日だってある。心は晴れなくて、ずっとどんよりした気持ちになることもある。そんな時に無理に自分を責めるのでもなく、ポジティブになろうとするのでもなく、ただただその感情に身を委ねること。一番難しいけれど、ありのままの自分を認められたとき、初めてやっと肩の力を抜くことができる気がするのだ。何事も楽しむこと。楽しもうと無理をするのではなく、自然体で感じること。「今日も頑張った」そう、自分に言ってあげること。雨の日は、気圧や気温の変化で、心身ともに体調を崩しやすくなるけれど、一日寝ている日があっても良い。何もできない日があっても大丈夫。それを丸ごと受け止めることができた時、きっとまた前に進むことができるから。雨が降る度に、私はこの言葉を思い出す──「日日是好日」。雨の音に癒されて、雨が嫌だとそう思える日常に感謝を忘れないように。そしてまた、今日という一日を、静かに味わっていこうと思う。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。