雨が降ると…どんなことをイメージするだろう。
私自身、雨はどちらかというと苦手だ。雨が降ると鬱陶しく感じる。髪は湿気でボサボサになるし、荷物が濡れたり靴下が濡れたりして不愉快になるからだ。
雨はどちらかというと苦手だけど、嫌いじゃない理由
でも、雨が嫌いというわけではない。落ち込んだ時に雨に当たって落ち着いたり、雨音が心地よかったり、雨水の雫が光に反射して景色がキレイに見えたり、雨の後の虹が美しかったり、気分によっては、少しいいなと思うところもある。
中でも、非日常を楽しめる大雨が時々好きだった。何か事件の起こる前触れ感があることも理由の一つだが、もう一つ理由があった。
雨漏りだ。私の家は以前雨漏りをしていた。
雨漏りは1箇所にはとどまらず、1階も2階も3階も全ての階で雨漏りしていた。部屋も1部屋ではない。廊下だったり、応接室だったり、リビングだったり、寝室だったり。雨の量によって雨漏りする場所も違った。
普通に考えると、困る状況ではある。真夜中に起こるものなら睡眠時間を削られ、翌日寝不足のまま出勤と実際に困ることもあった。でも、何か困る以外のものを感じていた。
各部屋で奏でられる雨漏りセッションは、我が家オリジナルメロディ
雨は突然降ってくる。時間関係なく予期せぬまま、大雨は訪れる。
それは、我が家の愉快な時間の始まりだ。
使い古したタオルとバスタオルを取りに行く係。バケツや桶、花瓶を探す係。雨漏りの場所を把握する係。各々が素早く家中を駆けまわる。繰り返される雨漏りで天井が変色しているため、雨漏りの場所は比較的に見つけやすい。
しかし、雨の量や風向きによって雨漏りする場所は異なる。
「今日はここのところは無事だ!」
「こっちはダメだ、この花瓶じゃあふれちゃう!」
にわかに騒がしくなる。バケツリレーのようにタオルを順にまわす。雨漏りの初期対応が終わると一息、温かい緑茶で休憩。花瓶、バケツ、桶に落ちる雨音が静かな部屋に響きわたる。
ピチャンピチャン…パタ…パタ、ポタ…ポタ、チョンチョンチョン。
器の作りや大きさによって様々な音を奏でる。雨水が落ちるスピードによってテンポが違う雨漏りセッション。あらゆる部屋で奏でられるセッションは部屋ごとに曲想が違い、どこか心地よかった。
一般的な家では感じることができない、私の家にしかないオリジナルメロディ。勝手に変わるテンポを楽しみながら飲む温かい緑茶が、喫茶店気分で愉快な気分になった。
雨漏りがなくなり平穏な日々が訪れたけど、どこか寂しい
数年前に壁を塗り替え、雨漏りはしなくなった。タオルリレーがなくなり、平穏な日々が訪れた。睡眠時間を削られる機会もうんと減った。
でも、どこか寂しい。家族の連携雨漏り係はなくなり、雨漏りセッションを聴くことはなくなった。
雨漏りの奏でるセッションの音源をとっておけばよかった……と少し後悔する。でも、あれは生で聴くからいいんだろうなぁ、と時々思い出に浸る。
雨の日に訪れる、雨音と私たちの奇妙で愉快な日常は終わってしまったが、雨の思い出は今も私の心に生き続ける。これから先もずっと。