しとしと降り注ぐ雨は、心の底からどんよりとした何かを呼び起こす

雨の日は嫌いだった。気分は憂鬱になるし、外は暗いし、晴れと比べたら断然嫌な日になった。晴れれば出かけられるところも、雨だと中止になるところがある。写真が映えることはなく、思い出フォトの楽しみも減った。傘は重く、差していてしんどくなるし、手が疲れた。靴は濡れ、バッグだって濡れてしまうし、良いことは無かった。

とにかく雨は嫌だった。雨で嬉しいなんて思わなかった。しとしとと、降り注ぐ冷たい水は、私の心を大きく動かすだけだった。憂鬱になるだけでなく、心の底からどんよりとした何かを呼び起こしていた。

上空何千メートルから落ちてきて、静かに滴る一粒は人の心を大きく動かすのだ。たった一粒はたくさんたくさん落ちてきて、何千メートルの旅を得て人の心に入り込む。その大きさはとてつもなく、人々に影響を与える。

暗く広がった雲は、夜になれば、もっと暗く静かになる。あの日、私は帰り道、闇から静かに旅をしてやってきた雫たちを見て、ふと出てきた感情があった。傘を差して歩く一人暮らしをする自分の家への道のりは、遠く遠く、心が締め付けられた。

あの雫を見ると、誰かといたい寂しい気持ちに駆られてしまう

「誰かといたい、寂しい」
私は、恋愛なんてしたくないし、ずっと一人の自由が幸せだって、二十歳前後は強く思っていた。一人で稼いで一人で生きていきたいと強く誓っていた。
なのに、あの雫を見ると、誰かといたい寂しい気持ちに駆られてしまう。こんなにも、今充実しているはずなのに。誰かといないと生きていけないような、ぎゅっと胸を締め付けられるような気持ち。それが私には辛かった。

母は出ていき、上手く生きられない過去を持つ私は恋愛なんてしたくない。めんどくさい、結婚に恋愛に良い事なんてない。だから自由に生きて生きたい。
その為に、資格の勉強も、社会人になる為にも、いっぱいいっぱい頑張っていた。
だって、一人は自由で楽しいから。誰にも縛られることなく、私は晴れるように解放されたかった。

でも、あの雫は、それとは違う気持ちを呼び起こした。経験したことの無い、誰かといる気持ち、誰かといたい気持ち。心を満たせない、寂しい気持ち。

だから、雨は嫌いだった。自分の本心を呼び起こし、私の胸をぎゅぅっと締め付けた。
なぜだか、ワンルームで涙が出た。理由も無いのに、目から雫が落ちてきた。そんな日は、たくさんあった。

雨は悪い日ではなく、幸せになるために心を動かせる日だった

でも今、私は雨の日、旦那とひとつの傘に入り、晴れの日と同じ気持ちで二人で歩く。
それはあの雫が、私に本当の気持ちを教えてくれたからだろうか。
恋愛なんかしたこと無かった私は、恋愛に踏み出し、誰かと一緒にいる幸せを知っていった。

雨の日は、きっと心を鏡のように映し出す日なのかもしれない。
雨は悪い日ではない、私が幸せになるために、心を動かせる日だったのだ。

本当は誰かと一緒にいたい気持ち、結婚して幸せになりたい気持ち。パートナーと共に人生を歩みたい気持ち。ひとりでなんか生きられない気持ち。全部教えてくれたのだ。

本当は寂しくて、誰かといたかった。
満たされてなどいなかった。
きっと、雨は晴れとは違う、私に出会える日。
自分と向き合い、前に進める日なのかもしれない。