中野新橋のもんじゃ焼き屋。社会人になってから、金曜日の夜といえばここ。今日も注文後、友人の決まり文句を聞くことができた。

「桜えび抜きで、お願いします」

これは決して彼女が「えび嫌い」なわけではない。それは私のために発される言葉、友情の証。

突然の「ちいさな制限」

私はセブンティーンの頃から甲殻類アレルギーとお付き合いをしている。えびのほか、かに・たこ・いか・貝類などにも注意が必要だ。

アレルギー反応といっても、食べたら即死!というわけではなく、のどがかゆくなる・からだが火照りだす、その程度。母親ゆずりの体質のようなものだ。

突然その「ちいさな制限」とともに人生を歩むこととなったが、たいしたことはない。むしろ、友人の配慮、その優しさに触れることができてうれしいとすら思う。ハタチを過ぎてからは上手く折り合いをつけてやっていけている、その自負がある。
「わかっているよ、油断は禁物。少し我慢をすればいいだけだよね」
「アナフィラキシーショックを引き起こさないように気をつけるよ」
いつもそうやって自分に言い聞かせている。だから私は大丈夫。

……いやだよ、たまには食べたい。元々は好物だもの!!

回転寿しでは甘えびばかりを手に取っていたのに。
カップラーメンにお湯を注ぐ前に箸でちまちまと「かやくのえび」を抜かなければならない。高級焼肉のランチへ行ったって、大抵付け合わせのキムチには「えびのエキス」が入っているから食べられない。
スーパーやコンビニでは、商品の裏側のアレルギー成分チェックが欠かせない。大の「えび好き」の兄を持っているが、食卓にえび料理が並ばなくて申し訳ない。
恋人と海が一望できる伊豆・下田のホテルへ泊まっても、朝食や夕食には海鮮が多くてハラハラしてしまう。

少しの不安と不満。そして「避ける・控える」を繰り返さなければならないという、シガラミ。
私は、気づいたら「アレルギー持ちの私」に、コンプレックスを抱いていた。

エビ入りコミュニケーション

「ほら、もんじゃ焼けた」

彼女は今日もよく食べる。学生時代の思い出ばなしから、今やっている仕事のあれこれまで。彼女は生レモンサワーを、私はコークハイを片手に、止まらないトーク。
しゃべり疲れた、ピーチクパーチクは止まった。
解散した。
終電に乗った。
翌日は土曜。昼まで寝た。

スマートフォンの画面をつけると、昨夜会っていた友人から写真付き・一通のLINEが入っていた。

「今日も出社した。土曜なのに自分えらい。ランチは奮発する、お高めの中華にした(添付:エビチリの、どアップ写真)」

投稿者提供

翌日、また一通受信。「さすがに日曜は休みを満喫するわ。歌舞伎を観に行ってくる。初めて海老◯さんに会えるの!ドキドキするー!」

「いつも桜えび抜きにしてくれるくせに~!具合悪いからやめて~(笑)」
「いちいち報告せんでええわっ!」
お返しのツッコミも板についてきた。

私は、楽しくなってきた。「アレルギー持ちの私」も案外わるくないかも。

ちなみに、恋人と下田旅行もリベンジ。甲殻類アレルギーの旨を、事前にホテル側へ伝えておいてくれた。彼のお食事は「海鮮フルコース」。私の目の前に運ばれてきたお食事は「しいたけフルコース」。

「甲殻類以外の魚介で」とか「山菜フルコース」とか「お肉をメインにしました」とかではなく、しいたけの一本勝負。しいたけのことは好きだが、まさか主食・主菜・副菜すべてにしいたけが絡んでいるとは、潔い。おかげさまで、ゲラゲラと笑った。彼とのビッグな思い出ができた。

愛を感じるきっかけになるならば。

新たなコミュニケーションの材料となるならば。

甲殻類アレルギーも私の個性のひとつ、一種のコミュニケーションツールに過ぎないようだ。 

また金曜日がやってきた。「桜えび抜きで」の一言が、私に力をくれる。愛ある「えびイジリ」も今日は生で聞かせてもらおうかな。

ペンネーム:こみぃ
雑誌の編集アシスタントやWEBの求人広告ライター等を経て、昨年秋よりフリーで活動。ライター及び添削指導員として奮闘中。エッセイど素人ですが、ずっと書きたいと思っていました。