私は人生で一度も黒髪であったことがない。色素が薄い、もしくは無く生まれる遺伝疾患、アルビノだからだ。

アルビノの人の髪の色は様々だ。白から金髪、褐色、茶髪まで。私の色はミルクティーブラウンと言われることが多い。自分でも何色と言いにくいが、私はこの色を気に入っている。祖父母も母も父もこの色を褒めてくれたし、友人にも「いい色だね」と言われた。それは素直に嬉しい。

黒髪でないことはコンプレックスではない

でも、私にも黒髪に憧れる夜があったし、今もある。単純な話だけど、アニメや漫画のキャラクターに艶やかな黒髪のキャラクターがいたり、CMで艶やかな黒髪を宣伝していたりすると、ああ、いいなあと思ってしまう。

黒髪でないこと自体はコンプレックスでも何でもなかった。中学に上がる前に行ったカナダで、「世界には様々な髪の色の人がいて、ほぼ黒一色に統一されている日本が特異なのだ」と知っていたから。

でも、親には言えない。絶対に

でも、親には冗談でも「黒髪に憧れている」なんて言えなかった。
だって、アルビノは遺伝疾患だから。アルビノは両親双方からアルビノの遺伝情報を受け継ぐことで発現する遺伝疾患だ。つまり、父と母からアルビノの遺伝情報を受け継いで、私はアルビノになったのだ。それだけじゃない。私がアルビノとして生まれたことでどう育てていけばいいか困惑した母は病院を渡り歩き、大きな病院で皮膚の採取などもしている。赤子を抱えて病院を渡り歩くのは大変だっただろうし、何より不安で不安で仕方なかっただろう。

「一度艶やかな黒髪を体験してみたい」

それは決して親が私をアルビノとして生んだことを否定することではない。
だけど、両親に「アルビノで生まれたことが嫌なわけじゃないけど、黒髪への憧れというものがあるんだよ」と伝えることが、怖くてできない。伝えてしまったら「アルビノで生まれたことをつらく思っている」と取られかねないからだ。

ウィッグでも、染めるのでもいいから、一度だけでいい。黒髪の自分というものを見てみたい。自分の顔でなくなったみたいで混乱するかもしれないし、案外しっくりくるかもしれない。やってみないことにはわからないのだ。

いつかは親に話したい

黒髪への憧れを親に言えない。
そこには自分の普通でないアルビノが「よくない」とか「苦労するもの」と親に思われているだろうという思いこみがあるような気がする。たしかにアルビノであるがゆえの苦労はある。以前のエッセイでも書いたが、例えば「弱視」の問題。それは事実だ。でも私はアルビノであることを嫌だとは思っていない。その上で黒髪にも憧れる。そんな話を親とできるようになりたい。