ほしいものは……くまさんのキーホルダーかな、と口に出してみる。 最近ちょっと話すようになった会社の他部署の先輩が、出張先から「なにかほしいお土産があればなんでも笑」とメッセージを送ってきた。 社交辞令でもあるけど、頼めば何の気なく買うんだろう。
はじめに言うと、先輩には善良な家庭があり、私には数年交際している人がいる。 そして先輩と私は全くもって「ただならぬ関係」ではない。 つい最近、共通の話題で盛り上がり、親しくなったくらい。 だから、彼の下にいる後輩たちも、ほしいお土産を聞かれているだろう。
できたら可愛くて気の利いたもの。 何気なく使えて、毎日みんなの目に留まるような。 つまり「そんないいのもらったの?」と思ってもらえるものがいいな。
「なんかさ、それって好きなんじゃない?」
「そんなことないよ絶対!」
…… というやりとりに憧れてはや数年。
なんてことない私の注目の集め方
恋愛至上主義な高校のクラスで、なんてことない存在だった私は 「なんかありそうな女の子」になってみたかった。 当時、私には気になる人がいた。男女ともに人気のスポーツが得意な男の子。 席替えで待望の隣になり、どうやら苦手科目が数学らしいことがわかった。 私は予習をしっかりし、先生にあてられて立つ彼にこっそり教えたりもした。 あの瞬間、私達をとりまく好奇の目が心地よかった。 数学の授業を機に、少しずつ話し、笑い合うようになった。 授業が始まる前のあの静寂こそ、私はわざとくっくっと笑い続けた。 仲の良さをみんなに見てもらいたかった。
ある日、噂話に盛り上がる女子の輪の中で、彼の名前をわざと引っ張り出してみた。 人気者の彼のことだからもちろん、場は盛況になる。 でも名前が上がったのは私ではなかった。 夏休み明けから、柄にもないおさるのキーホルダーを、 かばんにつけはじめた隣のクラスの女の子といい感じだそうな。
私はがっかりを隠そうと、「前からそんな気がしていたよね!」と、必死になって相槌をうった。 そしてなんでおさるのキーホルダーなのか真剣に考えた。 動物園のおみやげ?初デートの記念?それともなんだろう。 何にせよ、周りの目を毎度かっさらう、そのおさるが憎くてうらやましくて仕方なかった。
もうすぐ結婚する友人。「もったいないな」と思う私
「男性の威を借りて」注目されたい欲求に取り憑かれたのは、たぶんそこからだろう。 憎き高校時代を卒業した大学生活。 今まで陰日向にいた男女もこぞって共鳴し付き合い出した。 その波に乗り、地味な私と付き合う人も現れた。
でも、どこか満たされないのだ。 毎日LINEして、時折おでかけし、顔を隠した写真をインスタグラムに載せて、いいねをもらう。
違うんだ、私が求めているのはそんな地味なことじゃないんだ。 26歳になった今、友達が結婚しそうだなんだと聞くと「もったいないな」と思う。 まだきれいなのに、そんなことしたらもう一生ちやほやされないじゃん、って。
必死になって子どもと遊ぶママたちを公園で見かけると、胸がきしむ。 彼女たちが幸せなことに間違いはないのに、 賛同しきれないくすぶりがある。
そんな私は結局、出張先の先輩に本当にほしいものは伝えられず、 「写真でもとても嬉しいです!」と愛想よく書いた。 今ここで欲を張ると、先輩の気遣いはこれっきりになってしまうかもしれないと考えた。 何枚も送られてきたよくある絶景は、しばらくパソコンの壁紙にでもしておこうと思いつく。 そして同僚から聞かれるまで、うっとり眺めるふりをしていよう、とも。
ペンネーム:おナス
営業職や編集職などいろんなことをしてきたOLです。 猛暑の中でも一所懸命に働く、佐川急便のおじいさんとかに、すこぶる弱いです。 ここずっと思うことがあったテーマだったので筆を執らせていただきました。 友達が少なくても、恋人がいなくても、同情されずにたのしく生きる女の子が増えればいいなと思っています。