私には1つ違いの姉がいる。彼女の経歴をここで簡潔に述べておこう。まず、学生時代は体育会系の部活に入部して活躍し、民間企業に入社して、結婚。より安定性の高い職種にジョブチェンジし、マイホームまで建ててしまったスーパーウーマンである。例えばこれが人生ゲームだったら、次は、4マス進んで車に子どものコマを刺すんじゃないだろうか。一般的な価値観で言えば、人生順風満帆を絵に描いたような人物だと言える。

真新しい木の匂いのする三階建ての家に「ホームパーティーしようよ」と呼んでくれる姉。思春期にはそれなりに喧嘩もしたが、両親が不仲だったせいもあって私達の結束は双子のように固く、分かち難い片割れとして互いを想っている。結婚式の時、私は「離れ離れになってしまうんだ」と式場にいる誰よりも泣きじゃくったし、姉は姉で「今の旦那は、妹に少し似てるから結婚した」という始末である。 ラブラブだ。

なんと美しい姉妹愛!で、済めばもう筆を置いていいはずだが、そうもいかない。一緒にいるということは比較され続けると同義だからだ。

私についても紹介…書くことないなあ

では、ここで私の簡単な経歴を述べておこう。勝手に姉だけ開示して私の経歴は隠匿するなんてフェアじゃないですからね。よーし、書くぞ!

まず、学生時代は教室の床で早ジャン(※火曜日発売の少年ジャンプを月曜日に売っている店で購入しいち早く読むこと)に打ち込み、帰宅部として活躍したのち、社会人として上手くいかず………終わってしまった。特にこれ以上書くことがないなぁ。

全く他人事ではないが、私の人生ゲームは、トリッキーな動きをして皆を笑わせる訳でもなくただひたすらに、白紙のマスをちまちまと進んでいる。人生の履歴書があるなら、姉はフォントサイズ8ptでもギッチリ埋められそうだが、私は12ptでも余白いっぱいかもしれない。

姉が初めてこぼした愚痴

私は、姉を大切に思いながら、実はどこかでその順風満帆な人生を羨んでいたのかもしれなかった。
歪な姉との関係に転機が訪れたのは、つい最近の事だ。姉が病気を患ってしまった。病名は伏せるけれども、体力が落ち痩せてしまった横顔はどこかフォントサイズ8ptの密度の濃い人生に対する疲弊が滲んでいるように見えた。療養中の姉とは、ひんぱんに連絡をとっているが、彼女は体調がすぐれないにもかかわらず、相も変わらず私を気遣ってくれる。

変わったことといえば愚痴をこぼしてくれるようになったことだ。旦那のことだったり、両親のことだったり。これほど、弱音を吐く姉を私は知らなかった。彼女の強い責任感と、心配をかけまいとする優しい心根に、より深く触れた時、私は今までの自身の狭量さに呆れてしまった。

姉は私を守るために戦ってくれていた

姉が、彼女の人生を自発的に選択し、道を切り拓いてきたことは間違いない。けれど、それだけではないだろう。無意識的であっても、長女として親を満足させようと努力してきたのだ。フォントサイズ12ptでも人生の履歴書が余る妹が、親から「しっかりしなさい」と責められないように、姉は親孝行に余念がなかった。父親の還暦祝いには一眼レフのカメラをプレゼントし、母親とは一緒に海外旅行に行く。そうして、いつまでも白紙のコマをチマチマと進む次女の盾となり、「自慢の娘」となるべく戦ってくれていた。

30歳を目前に、仕事で折れてしまった私は、他人からの評価や社会的地位に固執するのは、やめようと考えるようになった。12ptの人生を8ptにする為に努力するのではなく、有り余った余白には、自由な絵を描きたいと思った。

未経験でも下手くそでも投稿してみたかった

文章を読むのが好きだ。それなら何かを書いてみよう。こうしてエッセイサイトに自分の考えを投稿するなんて、1年前だったら考えもしなかった。だけど、未経験でも下手くそでもやってみると決めたのだ。最初は、投稿フォームに自分の書いた文章を貼り付けるのにもドキドキした。私の人生履歴書が今後どうなるのか自分でも分らない。5年後、親に呆れられ「しっかりしろ」と言われ続けているかもしれない。けれど、後悔のない人生を、自分が誇りに思える人生を送りたい。そのために誰かに否定されてもめげるつもりはない。

ただ、1つ。今まで私のために戦ってくれていた姉には感謝をしたい。そして、姉の病気が快復する事を願ってやまない。人生はゲームなんかではない、オリジナルなものだ。順風満帆なんて他人が勝手に評価をくだして良いわけがなかった。姉には姉の悩みがあり、私には私の悩みがあった。

お姉ちゃんへ

私はお姉ちゃんが、弱音を吐いてくれるようになって初めて、順風満帆な人生や幸せの定義は他人が決めるものじゃないって気付いたよ。辛いこともたくさんあったよね。分かってあげるのが遅くなってごめんね。

すみれより

人生の履歴書はひとそれぞれ。私では頼りないかもしれないけれど、少し休んで、嫌になったら私にもっと寄りかかって欲しい。姉の人生がどうなろうと、私はいつだって姉の味方でいるつもりだ。私達はいつまでも、分かち難い片割れ、ラブラブ姉妹なのだから。

ペンネーム:すみれちゃん

アラサー。プロフィールに書けることも特になしっていう、プロフィールです。人生の履歴書を自由に描く為に転職活動中。シスコン。

\n\n