仕事を辞めることにした。
社会人になって3年目、同じタイミングで社会人になった周りの友人たちのうち、3分の1は転職をした頃、わたしも転職を決意した。
覚悟を決めたら意外と早いもので、トントン拍子に面接へと進み、気づけば第一志望の内定をもらい、退職届を提出していた。
大好きだった先輩が二人とも転勤してしまった
転職を考え始めたのは、遡ること1年以上前。
転職者に向けたセミナーに通い、ぼんやりと思いを巡らせていた去年の1月。
その頃から仕事で大変なことが重なって、毎日職場に向かうのが精一杯だった。
それでも「ひとまず3年は頑張って続けよう」という気持ちで、なんとか重い足を引きずっていた。
しかしその年の3月、お世話になっていて大好きだった先輩が二人とも転勤することになった。
大学を出てすぐ働き始めてからの2年間、たくさんのことを教えていただき、たくさん話を聞いていただき、いつでも優しく見守ってくださった。
ああこの人たちには一生敵わないな、と思わせてくれる人に出会えることは、実は幸せなことなんだと思っている。
だからこそ、本当に寂しくて辛くて、春から自分はやっていけるんだろうかと不安になって、でもそれを声に出したりする勇気もなくて、ただただ笑顔で二人を見送った。
そこからの1年は過酷だった。
人間関係や仕事で疲れて病院にも通った。
点滴を打ってから出勤した日もあった。
毎晩朝がくることに怯え、泣きながらベッドに潜った。
だけど、その辛い生活の中である企業と巡り合った。そこで春から勤めることになったのだから人生とは本当にわからないものだなあとつくづく思う。
「辞めるって決めたこと、後悔してないですよ!」と言い切ったけど
退職を間近に控えた3月、先輩方とご飯に行くことになった。
お会いしたのは随分久しぶりだったけれど、まるで昨日も一緒に仕事をしていたのかのような気持ちで、仕事の愚痴を話したり、たわいないことで笑ったり、どの瞬間も愛おしかった。
わたしの転職についても気持ちよく応援の言葉をかけてくださって、春からがますます待ち遠しくなった。
だけど、先輩の1人が「ほんとは引き止めたかったんでしょ」ともう1人に向かって呟いたとき、胸がキュッと苦しくなった。
もしこの2人が転勤しなかったら、もっとたくさんのことを相談できて、仕事をやめようなんて思わなかったかな。
「辞めるって決めたこと、全然後悔なんてしてないですよ!」と言い切ったけど、その瞬間だけチクリと刺さった何かがあった。
100%後悔していないなんて言い切れない。
だけどそう思いたい。
それは先輩たちを、自分自身を安心させるための小さなウソ。
ありえないもしもの話にほんの少しだけ思いを馳せ、ワインをグッと飲み干した。
その日の帰り道は、転職を決めてから初めて期待よりも不安が上回って、最寄駅を降りてからの帰り道、視界をぼやけさせながら歩いた。
宙ぶらりんになりながら、それでも前を向いて進んでいくしかない
3月も中旬、時間だけが刻一刻と過ぎていく。
宙ぶらりんになりながら、それでも前を向いて進んでいくしかない。
今のわたしにできることを精一杯しよう。
だけど、あのとき、先輩の服にワイングラスから滴り落ちた雫がキラキラしていて、なんだかそれがやけに眩しくて胸が締め付けられて、頭から離れない。