私は自分の気持ちがすぐに顔に出るタイプだ。だから、ウソをつくことはできないし、それを自覚しているから、ウソをつくことはほとんどない。それでも、一つだけ鮮明に覚えている、私がついてしまったウソがある。ウソをついてしまった相手には今でも罪悪感が残っているし、できることならそのウソをつかなければよかったと思っている。

先輩からのラインはただただ頻度が多くしつこかった

それは、大学一年生の冬のことだった。可愛かったり綺麗だったりする人とは比べものにならないだろうが、それでもそのとき私は人生でいわゆる“モテ期”を迎えていた。

入学直後から参加していたサークルの先輩になぜか気に入られてしまい、夏から秋にかけて頻繁にラインがくるようになっていた。私は特にその先輩に興味があったわけではなかったけれど、面と向かって「イヤ」と言えず、その人から来たラインは未読のまま時間をおいてみたり、既読にしたとしても、「そうですね」「はい」などのそっけない返事を返すことで、何とか私の気持ちを察してほしいと願っていた。

それでもその先輩からのラインは止まることがなかった。内容がいやらしいというわけではなく、ただただ頻度が多くしつこかった。サークルで会った日の夜には「今日はどうだった?」と連絡がきたし、地震が起きたら「大丈夫?何かあったら教えて」と連絡がきた。地震のときは、身を守ることを第一にしていたため私がすぐに返信できないでいると、「本当に大丈夫?」と何度も追加で送られてきた。大学の学園祭も半ば強引に一緒に回らされ、傍から見れば付き合っていると思われていただろう。

実はそのとき、連絡を取り合っていて、二人で食事をしたこともある人がもう一人いた。それは高校の同級生だった。高校生の頃はそれほど親しい中ではなかったものの、共通の趣味があり、それをきっかけに大学に入ってから連絡を取り合うようになっていた。ただ、その彼に対しても、一緒に話していて居心地はよかったものの、恋愛感情まではなかった。

ここで“Yes”と言えば、しつこい先輩から逃げられるんじゃないか

ウソをつく契機となったのは、しつこいサークルの先輩から、クリスマスの予定を聞かれたことだった。なかなか断る理由を見つけられず、「家族と一緒に過ごすので…」などと返そうかと思っていた矢先、高校の同級生から「食事でもどう?」と連絡があり、先輩への返信をしないまま、彼との食事の詳細を決めた。

食事のあと、イルミネーションがきれいな街並みを歩いているとき、彼から告白された。正直にいえば、そのときまだ彼にきちんとした恋愛感情はなかったものの、自分の気持ちにウソをついて、ここで“Yes”と言えば、とにかくしつこい先輩から逃げられるんじゃないかと思った。そして、私は彼と付き合うことになった。

付き合っていればそのうち本当に好きになるかもしれない、そんな考えでいた。そのとき彼は、私が自分の気持ちにウソをついていたことを知っていたかどうかはわからない。
付き合って数日後、私と彼は相談して、多くの友達がしているように、自分たちのFacebookのプロフィールに「交際中」と表示することにした。そしてその後すぐに、先輩からの連絡はパタリと止まった。きっと、私のFacebookをよくチェックしていたのだろうと思う。連絡がとまり、ほっとしたのを覚えている。

自分の気持ちに正直に答えていれば、彼にウソをつかなくてもよかった

それでも、自分の彼との交際は長くは続かなかった。一緒にいる時間が長くなれば好きになるかもしれないと思っていたが、彼に対する私の気持ちはやはり恋愛感情までは進まなかった。そんな気持ちがきっと私の顔や態度に表れていたのだろう。3ヶ月もしないうちに、最初は毎日のようにしていた連絡も間隔があくようになり、ついに別れ話に発展した。私から「ごめんなさい、これ以上付き合い続けることはできない」と彼に伝えたときも、彼はまるでそれを最初から予感していたかのように、すんなりと受け入れてくれた。

彼からの告白に対し、自分の気持ちに正直に答えていれば、彼にウソをつかなくてもよかった。それなのに、ただただしつこい先輩から逃げたいがために、ウソをついて付き合ってしまったことを、誠意のない行為だったと反省している。しかしそのときの状況で、彼にウソをつかず、そのまま誰とも付き合わずにいたら、先輩との関係がどうなっていたのか、それもわからない。