4月。高校生時の部活見学で私は迷っていた。私は小学生のころチラッとバレーを経験し、中学では陸上部の中長距離選手として部活に取り組んでいた。『高校ではバレーまたしようかな、、』と思っていたが、私が通っていた高校は公立高校ながら女子バレー部の強豪校で、髪型や制服の着用も厳しく(テスト期間中以外は私服やアレンジがOKだった。)休みもない。国体選手がでるほどだった。そこまで本気でするつもりもなかったが部活には入りたい。すると、勧誘でバスケットボール部に誘われた。初心者が多いらしいバスケットボール部は先輩との関係性も良さそうで、入学式に出会った顔見知りの子もいたということもあり私はバスケットボール部に入部した。

“同性”の友達からの「彼女になって」。冗談だと受け流した

高校2年生になった。部活もクラスも友人関係に恵まれて楽しく過ごしていた。人見知りもなく、部活を通して交友関係も広かったので明るく過ごせていた。誰とでもそれなりにはしゃいで喋って笑い合えていたと思う。

そんな中、女子バレー部のAとよく喋るようになった。背が高く、ツーブロックの髪型。一人称は「俺」だった。"強豪バレー部"なので、いつも部活の時以外はスカートの制服を着ていた。『ボーイッシュが好きな子なんかな』と軽い気持ちで考え、あくまでも私はその子を"女の子”として見ていたので、抱きついたり腕を組んだりスキンシップもたくさんとっていちゃいちゃしていた。

ある時抱きついた時に「かわいいなあ、俺の彼女なってや」と言われた。「えー?笑」と笑って流した私。相手のリアクションは正直あまり覚えていないが、それ以降も仲良く過ごしていたと思う。「彼女なってや」みたいなことを言われたのはその時だけだが。Aとも私とも仲の良かった友人にAに言われたことを話してみると、「いつもかわいいって言ってるけど、彼女は冗談ちゃう?」と言われて安堵し、全く気にすることもなくなった。

ふと目にした「性同一性障がい」の文字。もしかして私、傷つけた?

当時は個人や部活、仲の良い友人と一緒にホームページをデザインして作るのが流行っていた。ファッションやメイクの写真、プリクラや質問コーナー、日記などを載せていて、今で言うブログである。

私も個人と部活と両方作って更新(笑)していた。(その後、mixiが流行り出す。)高校を卒業してある日のこと。何気なくAのブログをみると、「性同一性障がい」というタイトルで日記が更新されていた。トランスジェンダーで、身体的な性と性自認が異なること、恋愛対象、アプローチも本気にしてもらえない、バレーが好きで強くなりたかったから入った女子バレー部だったが、制服の悩みや何よりも"女子"に属する自分。そんな傷ついたことや葛藤を書いていた。『恋愛対象?アプローチ?』読んでそこが気になった。冗談として笑って流したあの時のことかもしれない。卒業前、"性的マイノリティ(少数派)"についてなんとなくの知識を持った私は、『Aはトランスジェンダーなんかもな』と後々思うようになっていたが、その頃はAと前ほど仲がいいわけではなく、いや、悪くもなかったが、わざわざ教室に行ったりする間柄でもなくなっていたし、『本人が何も言うわけでもないからあえて聞く必要もないかな』と思いそのことには触れなかった。しかし卒業してから更新された内容に罪悪感をやっと感じた。

本気だったのかはわからない。でも、あの言葉で私の考え方は変わった

Aとは卒業以来会っていない。SNSで繋がり、ホルモン治療をしていると知ったくらいである。「かわいいなあ、俺の彼女なってや」が本気のアプローチだったかなんて分からないが、この出来事をきっかけに私は性的マイノリティに関心をもち、勉強をするようになった。
最近はレインボーをテーマカラーにしたいろいろなSOGI(Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の英語の頭文字をとった言葉。)を持つ人たちによるパレード(もちろん身体的な性と性自認が一致していて、異性愛者の人でも参加ができる)もよく見かける。当事者からしたらやっとありのままの自分を主張できる時代になりつつある。それでも差別はまだまだ多い。現代の日本社会では同性婚は認められていない。パートナーシップ制度ができたが、結婚という制度と比べるとあらゆる面で劣る。あと、なんの気無しにでてくる言葉も当事者からしたら差別になる。分かりやすいのは、「彼女、彼氏いてる?」とか。

性的志向も性自認も、100人いれば100通り。もっと生きやすい社会に

SOGIは100人いたら100通りある。私も身体と性自認は女で、恋愛対象も基本的に男性だが女性を好きになったこともある。(相手の女性は身体も性自認も女性)だったら私はバイなのか?そんなことは分からない。さっきもいったが基本的には男性に魅力を感じる。たまたまその人が女性だっただけで他の女性には性的な魅力を感じたりしない。グラデーションなんだな、と思うことにした。同性愛者と異性愛者の間にこれといった線引きなんていらない。その間はグラデーションなんだと。

いろんなSOGIがあるのだ。そのことを踏まえて何気なく口からでてくる言葉を考えたら、けっこう差別的なことを発している自分に気づく。このカテゴリーだけでなく、いろいろなカテゴリー(外国籍、部落、貧困、障がい者などほかにもたくさんある)のマイノリティ(少数派)に対する差別を一人ひとりが意識したら、この社会はもっと生きやすくなると思うのである。