私はメイクをしていない。
したい気分の時はするけど、毎日のほとんどがその気分じゃない。
そもそもするという選択肢を選ぶこと自体が日常の中のイレギュラーだ。

出かけるとき、靴下を選ぶ。トップスを選んでそれに合うボトムスも選択する。しょっていく鞄を選んで、家から出る直前に今日履く靴を選ぶ。

それが私の毎日。
メイクをするかどうか選ぶ以前に、その思考はほとんど出てこない。

メイク好きな人がいるなら、メイクが好きじゃない人もいるはず

そもそもメイクってなんで皆するんだろう?
強迫観念?
したいから?
見せたい人がいるの?

一度友達に聞いてみたら、「気を許してない人の前だからするんじゃないでしょうかね。バリア的な」と言われた。
なるほど、その発想はなかった。
彼女によると、化粧は武装らしい。

メイクが大好きだという同級生もいる。
彼女は自分を表現する一部として、メイクを愛していると言っていた。好きだから苦ではないと。

メイクはマナーだと言う人がいる。空気がある。だからしなきゃいけないものなのかなと思ってする人がいるしその数は割と少なくないことはわかってる。わかってるけども。

メイク好きな人がいるなら、それと大体同じくらいメイクが好きじゃなくて、面倒くさくてお金もかかるし時間がかかるし、せっかく顔に塗っても一日も持たないからそれで無意味に感じて虚しくなっちゃう、私みたいな人もいるんじゃないかな。いやいておかしくないはずだ。

なんで、なんか寂しさを感じちゃうのかな。

女の子がメイクをするのって、たぶん当たり前なんだと思う

初対面で同世代の女の子に会って、自分がメイクしてない話をするとびっくりされる。
女の子がメイクをするのって、今の日本の社会の中で、たぶん当たり前なんだと思う。

短期バイトをいくつもやって、色々な契約の服装規定を見てきたけれど、男女で規定は分かれていて、女性のところに基本いつも「メイクはナチュラルメイク程度で」と書いてあった。
「これはメイクをしなくちゃいけないって意味なんですか?」と質問したことがある。
答えた担当のおじさんは、驚いた顔で「したくないなら、しなくても」と言った。「むしろしたいんではなかったの?」と思っていたような顔だった。
それならいいや、と、それ以降のバイトでは、ナチュラルメイクと書かれてあってもなにも聞かずにノーメイクで勤務して過ごした。

私はメイクする必要がないからメイクしない、そう思われているようだ

ある秋、駅の改札前の特設会場で期間限定のクッキーを売っていた。人も良い感じにはけてちょっと暇になったとき、一緒にシフトに入っていた社員さんが私に話しかけてきた。
「文乃さんって……ナチュラルメイクですか?すっぴんですか?」
その質問にすこし体がこわばった。「メイクしないなんてマナーがなっていない」、そう言われるんじゃないか。
「すっぴんです」緊張しながら答えた。
「どうしてメイクしないんですか?」責めるような口調ではない。
その返しは予想外だった。
「えー、面倒くさいから……」
「そんな」ちゃんとしろよ、のニュアンスで窘められた。軽く流した。
次の言葉でびっくりした。
「でも、すっぴんでそんなって、文乃さん肌綺麗ですね」

メイクしてない、と言うと、肌綺麗だねと言われる。
その相関関係がちょっとよくわからなかった。
最初は褒め言葉かな?と思ってたけど、すっぴんだという度にそう言う人がいた。
嫌味かな?皮肉だったりする?よくわからないけど。
メイクしなくてもいいもんねとかも言われたことがある。

彼女たちによると、私はメイクする必要がないからメイクしない、そう思われているようだ。
私は抗議したい。

なんで装わないの?って、装いたくないからだよ

違うんだよ!!!

別に確かにもしかしたら私の顔はメイクしなくてもいい顔なのかもしれないけど、そうじゃなくて、必要があるないに関わらず。
てか、メイクしなきゃ、綺麗に装わなきゃいけない顔があること自体が変なことなんだけど。
これを綺麗な顔と言われる側の私が言うことは、綺麗事かな?

でも、装わなきゃ認められない世界なんて、悲しすぎる。
なんで装わないの?って、装いたくないからだよなんとなくだよ、理由がいるの?いらないでしょ。
普通にメイクしないことに、日常の一つの選択に、理由なんていらないでしょ。