「あいつのこと気になってるねん」

そう言ったのは、たしか小学5年生だった頃。

ちょっと気になっている男の子がいた。いちばん仲がいい友人ふたりに教えたら、なんということだろう、あっという間に学年全体に広がっていた。

「応援したげたかってんもん!」

友人たちは口をそろえて言った。だからもう、なんだっていいやと思っていた。それほどまでにわたしにとって、友人たちは大事な存在だったから。鍵つきの交換ノートだってしていたし、プリクラだってたくさん撮っていたから、彼女たちに嫌われたくなかった。

だから。

はじめて浴衣を買ってもらって、髪を綺麗にセットしてもらった夏祭りの日。
気になっている男の子が、別の女の子と手を繋いで現れたとき。
それを見た友人たちが、わたしのほうを気まずそうに見たとき。

もう絶対、好きな人ができたとしても、誰にも言わずにおこうと思ったのだ。

好きな人ができても心の内に秘めてきた。恋を傷つけられたくなくて

わたしはそれ以降、中学でも高校でも大学でも、気になる人ができたことを友人に伝えたことはない。終わった恋の話、終わりかけの恋の話、もう気にならなくなった人との過去は大抵話せるのだけど、現在進行形の話は絶対にできなかった。なんなら付き合っている人の話だって、誰にもしたことなかったんじゃないかな。わたしにとってはどうしても、夏祭りの日がトラウマだったから。

気になる人のことを相談したって、結局は「告白したらええやん!」と言われて、「実はあの子あんたのこと好きやねんて」と相手にこっそり告げられて、陰でなんやかんや言われるだけだろどうせ、と思っていた。今でも思っている。わたしは可愛くないから、「あの子あんたのこと好きやねんて」と告げられた相手だって、彼女がいてもいなくても困るだけだろう。

「好きな人おらんの?」と訊かれたときは、たとえ付き合っている人がいたとしても、「いや~おらんな~」とのらくら躱していた。いつもそうやって躱していたから、「枯れすぎやん」と言われることもしばしば。でもそれで全然よかった。

「好きな人がいない」という嘘は誰も傷付けないものだから、ちょっとずつ嘘を重ねたって、全然平気だったのだ。いつだって恋人を作るときは、いちばん大事なグループの外側に作るように心がけて。グループ内部に好きな人ができたときは、誰にも言わず、恋を殺した。

無駄なことだと思われるだろうか。思われるだろうな。書いているだけで泣きそうになってきたけれど、わたしはただただ、好きな人とわたしの間に誰も介入してほしくなかっただけなのだ。周囲だけでなく自分に嘘をついてでも、わたしの恋そのものを誰にも傷付けられたくなかった。

隠せなくても、晴れやかな気分になれる。そんな恋に出会った

今、わたしには恋人がいる。

付き合えばすぐにみんなに知れ渡り、別れればまたすぐにみんなに知れ渡る、大学のサークルよりも風通しの良い会社での「社内恋愛」。付き合って2年以上経った今、わたしたちの関係を知らないのは新入社員だけである。なんなら部署の飲み会があるとき、恋人も一緒に呼ばれるぐらいだ。恋愛事情はほぼすべて筒抜けだ。わたしが言わずとも、恋人がめちゃくちゃド正直に全部話してしまうから。

そうなることが分かっていて、告白したのはわたしからだった。なんかもう、気付けばめちゃくちゃばかみたいに好きになっててどうしようもなくて、酔っぱらった勢いで告白したのだった。

みんなに知られたとしてももういいや、と思えたのはこれがはじめてで、なんならわたしから告白したのもはじめて。告白した翌朝、二日酔いに悩まされながら、でもなんだか晴れやかな気持ちになったのもはじめて。そして今なお、告白したことを後悔していない。

自信を持って「好き」と言えたなら、きっと嘘をつかずに恋愛できる

結局嘘をついて隠していたのは、わたし自身が、彼らを本当に好きではなかったからかもしれない。周りがみんな恋愛するから、わたしも恋愛しなきゃと焦っていただけなのかも。無駄に焦って好きになろうとして、でもその「好き」に自信がないから誰にも言わなかった。自分に告白してくれた彼らのことを好きになれず、最終的にフッたのはほとんどわたしからだ。

わたしなんかに告白してくれた彼らには心からのお礼を。

そしてわたしの嘘に気付きながら、わたしに突っ込んで聞かずにいてくれた友人にも、むしろめちゃくちゃ根掘り葉掘り聞いてくれた友人にも、ありがとうを言いたい。

たぶんわたし、今、ちゃんと恋愛できてる気がする。
自分を含めた誰にも、嘘をつかずに。