朝起きると「あ、風呂掃除しなきゃ」と何故か1人で焦りはじめ、唐突に歯磨き粉を持って風呂場へ駆け込んだ。
日々スマホで情報収集をしていたときに、風呂のサビには歯磨き粉が良いと知ったからだ。

起きがけでバキバキの体をすくめながらブラシへ歯磨き粉をつけて、サビを目がけてゴシゴシ擦る。なかなか落ちないなと擦りながら、私はふと気付いてしまった。

「…3日後、私の誕生日だ。」

世間が自粛ムードの2020年5月、私は29歳の誕生日を迎える。

簡単には語れないほどの経験をした20代

今思えば、富士急ハイランドの絶叫アトラクション並みにハードな20代を送ってきた。(たまに1人で絶叫していたこともある。)

憧れのテレビ業界に就職し、昼夜問わず仕事に明け暮れた。これ以上ないぐらい私にとっては贅沢で、かつ過酷な環境だったが、この経験があるからこそ今は色んなハードルをひょいっと超えることができるのかもしれない。
その後、3回の転職や病気での入院。貯金が底をついてドラマのように空を見上げる日もあれば、3社目の職場では上司と馬が合わなくて病んでしまい、休職もした。
この全ての経験が今の私を作り、奮い立つこともあれば、時に不安にもさせることもある。

頭の片隅には、“30歳までに…”という言葉がチラつく。
語り出せばきっと夜明けまでかかってしまうだろう私の20代の経験は、まだ元をとれないのか。
まだ、何者にもなれないのか。

変化のある20代を肯定してくれた友人の言葉

学生時代から仲が良く、近所に住む友人がいる。彼女は、今も変わらずテレビの現場で働いていて、私の生活をいつも間近で見てきた1人だ。

そんな彼女と去年の年末にお寿司を食べた。
「あーだ、こーだ」言いながら、お互い好きなタイミングで追加を注文し、話したいことを話す。この自由で気楽なスタイルがなんとも心地良く、あっという間に閉店間際になっていた。

そんな時、言葉はあやふやだが彼女からこんなことを言われた。

「大変かもしれないけど、羨ましい」

私はずっと、仕事を続けられナイ、会社に長くいる事ができナイ、結婚していナイ、クリスマス一緒に過ごす人がいナイなど、ナイナイナイのオンパレードで生きてきた。

まさかそんな私の人生を「変化のある人生だ」と言って、友人から少しでも羨ましがられる瞬間があるだなんて、考えたこともなかったのだ。

行動を起こすごとに壁にぶち当たり、たまに玉砕。そよそよと吹く弱風のように流れてきた今を、この時初めて肯定された気がした。

「30歳までにやるべきこと」を考えるより今を楽しもう

私にとって、“30歳までに”という言葉は、“29歳のうちに”という意味だ。

「29歳のうちにしなければいけないことってなんだろう」

「あと1年でその全てにマルをすることに、何か意味があるのだろうか」と問う自分がいる。

何だかんだ言っても健康で過ごす日々で、生活するには十分な給料を貰っている。
仕事帰りには表参道で美容院に行って、スーパーで好きなものも買えるのだ。
風呂のサビも誰にも頼ることなく、自分で落とせるようになったじゃないか。

何者かに当てはまらなくても、私だけの経験がそこにある。
私が責任を持って選んできたもの達で囲まれていて、しっかり守っておる。
まだ何者にもなれていないと考える前に、私は私なのだ。

そう考えながら、いつの間にか刷り込まれた29歳の焦りにそっと蓋をした。

クレイジーでもたくさん笑いながら生きていきたい

きっと将来は結婚もするだろうし、子供も欲しいと今は思う。
一方で、働くことは好きだから、なるべく仕事は続けていきたい。
挑戦したいことも山ほどある。

きっとそれらに向かってこれから1年もしゃかりきに過ごすだろうし、その先はまた成長した自分がアップデートできれば良い。

20代で色んな経験をしたからこそ、今後の未来に求めてしまう自分がいる。

「もう十分」「そろそろいいじゃん」と、ふてくされながら嘆いては他人を羨むことはもうやめた。

日々の暮らしが急速に変化する中、「こんなこと出来タラ…」「あんなことしていレバ…」というタラレバで一括りにされるアラサーが、自分の城を築いて最高に楽しくてクレイジーな日々を過ごす時代がやってくると私は思っているのだ。

これは、これから20代を締めくくろうとしている私の備忘録。
29歳も30歳も、そしてその先も、きっと小さな幸せを感じながらたくさん笑って生きていくんだろう。