大人になるにつれて忘れかけていた「暑い夏と私」の無邪気な関係
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暑いのは嫌いだ。
暑さは面倒くさい。
日よけにと帽子をかぶっていても、帽子と髪の毛が接している、その部分がもう暑い。
立ち止まる、暑い。
歩き出す、暑い。
汗だく。
日に晒される肌。
のぼせる頭。
汗、汗。
やめろ、目に入るじゃないか。
くさい汗で汚れる服。
早くお家に帰りたい。
発狂したくなるような暑さを除くと、夏はいい。
深い青空。
高い雲。
生き生き輝く緑。
澄んだ風。
葉と土の匂い。
緑のある星に生きていて、彼らのすぐ傍で暮らしているのだと、実感できる。
ひとたび、美しさが増す自然の存在を認識すると、そわそわする。不安になる。
今日本当に2限から授業だっけ。
「バイト木曜日に出勤」ってメモしてあるけど、今日は何曜日だ。
この講義聞いてて意味あるのかな。
白菜傷みかけてたなあ。なんで買ったんだっけ。
今日は帰ってから、何したらいいんだっけ。
あれ、私って、どうしてここにいるんだっけ。
今何してるの。
なんで息してるの。
私は、一体どこに行きたいんだろう。
夏は暑いだけで、何も教えてくれない。
自然は鋭くも麗らかで、ただそこにいる。
こんなふうになりたかったんじゃない。
こんなにも臆病で、脆くて、弱くて、いつも劣等感を纏って、作り笑いなんかして。
不安で不安でたまらない。
自分がどうしたいのかなんて分からない。
どんなとき笑いたいのか、
どんなとき嬉しいのか、
どんなときに泣きたいのか。
私の感情はどこへ。失踪中か、ストライキか。
小さい頃は無邪気だったなあと思い出す。
毎日遊ぶ。暑かろうが寒かろうが、関係ない。
外を駆け回る。
塀を登る、越える。
葉をちぎり、虫をつつく。
焦げる肌、棒みたいな脚、尖った顎。
汗なんか、襟元引っぱって拭っちゃう。
暑さまでも歓喜する。
日々冒険が待っている。
無敵だ。
お洒落なんて知らない。
1に、動きやすい服。
2に、走っていて邪魔にならない服。
3に、締め付けすぎない服。
真っ黄色のTシャツなんかはごめんだけどね。
幾度も誕生日を祝われ、背が伸び、体重が増え、
様々な学問に触れ、人の間で揉まれ、世にいう成人になった。
心と身体の隙間は大きいままに。
夏にそれは暴かれる。
「こうあらなきゃいけない」「はみ出してはいけない」「普通に考えたらこうでしょ」
何故。
なんだそれ。
暑さを喜べなくなったのは何故か。
長いズボン、丈の長いスカート。
それらを選ぶようになったのは、日に焼けるのが嫌なだけだろうか。
まわりがそうしているからか。
そうだとしても、私がそれに倣う、その心は何だ。
嫌だ嫌だ。
自然はこんなにも澄んでいて、穏やかで、どこまでも広がっているのに、
どうして私の心は、誰かが適当に押し固めた粘土みたいに冷たいのだろう。
こんなの嫌だ。
暑いのが嫌なんじゃない。
暑さで見え隠れする、ちっぽけな自分が嫌なんだ。
暑さは喜び、汗は友達、日焼けは勲章だったのに。
だけど、いくら思い出しても、幼子の頃のようにありたいと願っても、そうはいかない現実。
でも、偽って、繕って、本能の震えを押し込めながら、これからも生きていくのは嫌だ。
いや、もういっそのこと、半袖といっしょに捨ててしまおうか。
何故と嫌と、私探しを。
今年の夏には何を思うのだろう。
無垢で無知な頃には戻れない。
まるで禁断の果実だ。
しかし、夢や願いは何人も、自分自身でさえも、奪うことはできない。
迷いや苦しみも、きっといつか丈夫な糧となり、誰かを抱きしめる翼となる。
きっと今年も暑さにやられる。
苦しみながらでも、もがきながらでも、できれば少し喜びを感じながら、前進できていたらいいなあ。
半袖は捨てないよ。
頼れる戦闘服だからね。
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