わたしは褒められることが嫌いだ。
褒められるたびに劣等感や自己嫌悪が泥沼のようにひろがり沈んでゆく。

美人といわれることが多い。
背も高く目鼻立ちがはっきりしていてハーフに間違われることもよくあるので
お世辞もあるだろうが客観的にみると美人の分類に入れてもらえているのだろう。
そして見た目で損をするタイプである。
派手そう、遊んでそう、という印象をもたれる。
わたしは好きな服を着ているが、地味な見た目ではないのでそういった印象になるのも致し方ない。

実際は、家で本を読むのが好きなひきこもりだ。
友達もさほど多くなく、月に一度か二度遊びに出る程度だ。
毎晩飲み歩くなんてとんでもない。
毎日家で自炊をして、自画自賛しながらひとりで食べている。

勝手にイメージを決めつけられて、勝手に失望される恋愛

見た目に反し内向的な性格なので恋愛は苦手だ。
誰とつきあってもうまくいかなかった。

美人だしもてるでしょ?なんて聞かれ飽きたが
片手でも余るほどの元カレからはいつもふられていた。
付き合ってほしいというのはいつも向こうからだった。
わたしの何が好き?ときくと顔とか見た目とのギャップとか
だいたい同じようなものだった。

いつもわたしが好きになるタイミングでうまくいかなくなる。
別れるときの理由も
仕事が忙しくなって余裕がなくなった、僕じゃ幸せにできないと思う、、、
それもだいたい同じようなものだった。

そして共通するのがみんなわたしの悪口を言わなかった。
いっそのこと貶されて喧嘩したほうが気が楽だった。

どちらかと言えばメンヘラだが、
自覚はあるので、重すぎないように負担にならないように気を付けていた。
それが隠し切れずにじみ出ていたのだろうか。
わたしよりもっと「ヤバい」女の子はけっこういた。
でも彼女たちには受け止めてくれる彼氏がいた。

わたしはいつも自分のなにが悪いのかわからないままふられるのだ。

褒め言葉はノイズでしかない。ただ誰かの特別になりたい

人から褒められるたびに。自分の価値がなくなるようだった。
美人でも愛されないと意味がない。
ひどい言い方になるが、チビでもブスでもデブでもメンヘラでも
彼氏に愛して大事にしてもらえるなら美人なんかよりよっぽど存在意義がある。
誰の一番になれないのだったらどんな褒め言葉もただのノイズでしかない。

承認欲求が膨れる。
その他大勢の言葉なんていらない。
誰かの特別になりたいだけなのだ。

泥沼に沈んでは小石につまずくけれど、そんな道でも歩き続ける

泥沼の中は息が詰まる。
このまま溺れ死んだら楽かもしれないと思うと毎回邪魔が入る。
それはいつだってとてもしょうもない些細なことだ。
 来週のアニメの続きが気になる
 明日までに提出する書類ができた
 友達と遊ぶ予定がはいってしまった
 新しい本を買ってしまったので読まないといけない
 冷蔵庫にある賞味期限の近い牛乳を飲まなきゃ
そんなちいさな小石につまづいてわたしはゆっくり息をする。
気が付くとわたしは泥沼ではなく道の上で、長く続く道にはあちこちに小石が落ちていた。

またきっとわたしは褒められるたびに
作り慣れた笑顔を貼り付けて泥沼に沈むのだ。
でもまた小石につまずくことも知っている。
その繰り返しを少し愛おしいと思えるようになった気がする。
小石を拾いながらそれが宝石になるかもしれないと思うとそんな道でも歩きたくなる。