「うちは本当にダンス好きな人しか残らないよ。俺、最初全然ダンスやる気無かったもん。まあ、こんなこと言ったら先輩に怒られるんだけど」と、新歓に来た1年生に言うセリフとは思えない、斜に構えた発言をした先輩。むしろ決まり文句ばかりで宣伝してくる人よりも、信頼できる人だと思った私は馬鹿だったのだろうか。

飲み会では、いつも端の席にいて酔いつぶれた人の介抱役に回るし、女子が手料理を作るイベントでも、皆が食べ終わって落ち着いた頃になってやっと、残っている食べ物に手を伸ばす。いつでも一歩後ろに引いて、自分の役割を探しているような、そんな先輩でもあった。

先輩への気持ちが実らないなら、せめて仲良くしたい…

先輩に遠距離恋愛中の彼女がいることは知っていた。それなのに、夜遊びっぽいことをやめていないことも。だから後輩として「ただ話をしてもらえたらいいな」って、それだけのつもりだった。

しかし、同期の噂から広がり私の好意が先輩に伝わった時から、なんだか色々おかしくなってしまった。「朝、電話で起こして」と頼まれたり、夜中に「家に来たい」と言われたり。あの時、家に来るのはさすがに断ったけれど、私は自分がどうしたいのかさっぱり分からなくなってしまった。

この気持ちは実らないから、先輩と後輩として仲良くしたい。それだけだったつもりでも、私は先輩が好きなのだ。近くにいて欲しいし、触れたいし、触れられたいという気持ちがないと言ったら大嘘だ。

でも、都合のいい存在なんて嫌だ。私は先輩のダメなところが好きなわけじゃない。浮気させようなんて思ってない。だけど、もっと知りたい。先輩がなにを考えているのか分からない。先輩の心に踏み込みたい。

先輩を信用できなくて、付き合うことを断ってしまった

頭がパンクしたまま、流れで参加した飲み会で、私は先輩の前で爆発した。「なにを考えているのか分からない、意味がわからない」と泣き喚いた。酔い潰れて歩けなくなって、先輩に家に連れて行かれた。これも、ボランティアだ。酔った人を世話するという先輩にとって、たまたま回ってきてしまった役割だっただけだ。

先輩の家でベッドに放り込まれて、お酒で頭はぐわんぐわんしていた。
「……で、するの? しないの?」
そう言われて私が出した答えは、イエスだった。

そんなことがあって1ヶ月経たないうちに、先輩は他の部員とのトラブルがあってサークルを辞めた。辞めてからも、突然電話がかかってきて、2回ほど泊めたり泊まったりがあった。遠距離恋愛中の彼女とは、連絡は取り続けているけれども恋人関係ではなくなったらしい。

「付き合ってもいいよ」と言われたけれど「信用できない」と言って断ってしまった。好きだったし、どうしようもなく近くにいて欲しかったけど、付き合ってもろくな扱いされないんじゃないかと思って怖くなってしまったのだ。

「俺を好きでいてくれて、言うこと聞いてくれる」ということだけ求められて、ノリと勢いでナンパ術みたいなことばかりふっかけられて、先輩が私に信用されるように振る舞おうとすらしていなかったことが、ずっと悲しかった。

先輩の彼女どころか、都合のいい女にすらなれなかった私の後悔

その後、泣く泣く先輩との縁を切るも未練たらたら。辛かったからやめようと思ったのに、関係を築くことを諦めた後悔がどうしても襲ってきた。

私は、ただ先輩と話がしたかった。はじめて話した時に“信頼できる人”だと思った気持ちを、ずっと貫いていたかった。「どうしてできなかったんだろう」「何が悪かったんだろう」「相手だっておかしかったのに」と、今でも考えてしまう時がある。私はやはり馬鹿なのだろうか。

この話は、私がダメ男にうっかり自分で引っかかってしまった話でもあり、恋愛における価値観の違いの話でもあり、私がうぶすぎて恋の駆け引きに失敗した話でもあり、私が己の性欲に負けた話でもあり、彼女どころか都合のいい女にすらなりきれなかった話であり、相手に期待しすぎていたという話であり、先輩の心の弱い部分にだんだんと気がつき手に負えなくなった話でもある。

ここまでの話を読んだ人は「こんな男とは付き合わなくて正解!」と思うだろうか。「いろんなところにあったはずのチャンス、何で全て不意にしてるの!」と思うだろうか。

恋愛って、何が正しいのか分からない。