空が、とてつもなく広い。
いつもビルに隠れて、いびつな形に切り取られた空しか知らない。
それに比べてここは、見渡してもせいぜい5~6階建てのビルがあるだけ。
視界のゆうに7割は空が占めていると言っても過言ではないかもしれない。

大学まで、地元にいた。大学では一人暮らしだったけれど、それでも実家とは2時間の距離だった。自分が東京に行くなんて、考えてもなかった。

そんな私が、就職と同時に上京することになった。父母両家の祖父母も、親戚も同じ県か、せいぜい隣の県に住んでいたから、それはそれは親戚一同で大ニュースだった。

東京には憧れていた。行ったことは、修学旅行と大学生の時の旅行の二回と、就活の時期に数回。行けば行くほど、その魅力に取り憑かれていった。

ライブだって、美術館の企画展だって、なんだって、大抵東京限定か、東京がスタート。なにからなにまで最新の、なんでもある街。
渋谷、新宿、原宿といったファッションの最先端から、六本木、西麻布といったおしゃれな街、一方で吉祥寺や浅草のような住みたい街ランキング上位に上がるような街。

一度でいいから、東京に住んでみたい。だから、就職は東京勤務になれるところにした。

憧れの東京に住んでみたけれど、地元と比べてないものねだり

結論から言うと、結局はないものねだりなのだと思う。
地元に住んだら、きっと退屈だ、東京が恋しい、と言い出すだろうけど。
地元に戻りたくてたまらなくなった。

東京に住み始めて、いや、正確に言うと住み始める前にその家賃の高さに目が飛び出るかと思った。地元にいた時の2倍出しても、まだ狭い。独立洗面は泣く泣く諦めた。二口コンロも。

買い物に行けば、人の多さに辟易とした。毎日が正月のセールかと思うような混雑。持ち込み枚数に制限があるなんて、地元じゃ知らなかった。
仲のいい友達だっていない。そして何より、空が狭い。

もちろん、いいところもたくさんある。
とにかくイベントが多く、好きな作家の講演会に、自分の業界のセミナーと、たくさん行った。そしてそこでたくさんの人と出会い、またその人に誘われてイベントに参加して、の繰り返し。とても楽しい。
地元じゃ絶対に見れない、高層ビルから見下ろす夜景。言葉が出ないほど綺麗だ。

でも、やっぱり。
庭で採れる野菜をくれる隣人がいたり、仲のいい友達とすぐに会えたり、見渡す限りの青空だったり。
東京にないものが恋しくなることもある。

どうしても無理だと思うまで、それでも東京で生きていく

地元には、お盆やお正月の年二回くらいしか帰らないし、このご時世ではそれすらも危うい。
もういっそのこと、地元に帰ってしまおうか、そう思うことも多々ある。

でも。私は今の仕事を気に入っているし、人生でやり遂げたいことがあって、それは東京にいた方が実現しやすい。
だから、ここにいる。
地元に帰ればあたたかく迎えてくれる家族も、友達もいる。いつでも帰れる場所がある。

例えば。
死ぬ気で頑張って、本当にボロボロになるまで頑張って、どうしても無理、ってなったら。
地元に帰れば、きっと何も言わずに受け入れてくれるだろう。だから、離れていても頑張れる。

私の大事な人がいる世界を、ちょっとだけよくできるように。
私も頑張るね。また帰ります。