わたしは、月に一度美容院に行きます。行く時間は、平日夕方。それも会社帰り。
汗をたっぷりかいて、メイクも崩れている会社帰りを選ぶ理由は、“美容師さんはたくさん褒めてくれるから”です。
上司はよっぽどの成果を出さなくちゃ褒めてくれないし、戦友でもある同僚に求めるわけにもいきません。正直、毎日だって褒められたいです。とくに疲れた仕事帰りは、褒め言葉が沁みます。
お金を払ってでも褒められたいがために、美容院に車を走らせる29歳。これだけでもちょっと可愛い気がしますが、もっと“ほんとは褒めてもらいたい自分の可愛いところ”がこのあとに続くので、どうかお付き合いください。
今ならわかる「勝っておごるな、負けて腐るな」という言葉の厳しさ
先日、会社のとある試験に落ちました。何カ月も勉強して、準備を進めてきたけど、最終試験で落ちました。びっくりするほど泣き、そして腐ってしまって、後日上司からの指示に対して「私以外の優秀な社員にやらせてください」と、大人げなく拒否してめちゃくちゃ怒られました。仕事を拒否したのも、激しく怒られたのも初めてで、どうしてよいかわからず混乱して失恋ソングを流しながら泣きました。
腐ったまま日々は流れ、とある金曜日の夕方、美容院の予約の日がやってきました。いつもの素敵なスタイリストさんがやってきて、笑顔で挨拶をしてくれました。ヘアスタイルの相談をしながら近況を話していると、試験の話題になって、不合格の報告をしました。
「mikkaさんならいけると思ってました…残念でしたね」と前半褒めてくれてるのに、お腐れ神の私には、後半の「残念」というワードしか刺さりませんでした。
国民的アイドルグループの推しメンバーが「勝っておごるな、負けて腐るな」を座右の銘にしていて、なんてかっこいい言葉だろうと思っていました。いざ自分がボロボロに負けてみて、なんて厳しい言葉なんだと痛感しました。芸能界の海で泳いでいる人は強いです。
アシスタントさんを見て、少しの挫折で腐っている私が情けなくなった
その後、アシスタントさんのシャンプーが始まりました。ほどよい指圧の心地よい刺激が頭皮を通り抜けて、首と肩までほぐれるようでした。顔は、マスクとタオルに覆われていたせいか、突然涙が出てしまいました。
これほどに技術を磨いて(もともと才能があるのかもしれないけど)、ひたむきにスタイリストを目指しているプロの技を目の前にして、少しの挫折で腐っている自分が情けなくなりました。
シャンプーの気持ちよさで心も頭もほぐれて、気づいたら口を開けて寝ていました。
スタイリストさんのもとに戻ると「アシスタントさんのシャンプーがとてもよかった」と話をしました。「アシスタントさんが上司に褒められたらよいなぁ」という願いを勝手に込めて。「頑張ってるし、実力もついているから、いつか報われる」と、そんな風に本当は自分が言われたくて、ここに来ているなんてことは言えずに。
「褒められたい」のに、うっかり人を褒める自分って…可愛いのかも?
カットをしてもらいながら「女優の△△さんに似ている」「mikkaさんのここが可愛い」とか、褒められて喜んでいたら、気付くと髪がめちゃくちゃ短くなっていました。さすがにお任せしすぎました。混乱の末「おおっ可愛いですね!すごいですね!」と口にしたら、スタイリストさんは私を褒めている時よりもずっと魅力的な照れ笑いを浮かべました。
私は自分が褒められたいくせに、うっかり人のこと褒めちゃって、意外とそういうとこ健気で可愛いところなのかもしれません。こんなこと誰にも言えないから、せめて“ほんとは褒めてもらいたい自分の可愛いところ”という題目に乗っかって叫ばせてもらいます。
帰宅して改めて鏡をみると、思っていた以上に髪が短く、少年を連想させるほどのショートヘアの自分が映っていました。「やりすぎたかな」「早く髪伸びないかな」とつい願ってしまいましたが、家族のみんなはすごく褒めてくれました。
新しい私の姿をみた上司と同僚は、今までで一番いいねといってくれたので、あの美容師さんみたいに、照れ笑いで返しました。