高1の春、中学で受けたいじめの尾を引かせ、妙に斜に構えて生きることに慣れたわたしは、相変わらずクラスにこれといった友人を作らなかった。代わりといってはなんだが、友人が少なくとも気高く生きる父母をまねて、毎朝新聞を読み始めた。

ある朝の運命的な出会いが『Loveability(最高の人生を引き寄せるには自分を愛するだけでいい)』というロバート・ホールデン氏が書いた洋書の日本語訳だった。「自分を愛する」なんて初めて触れる言葉から、表紙のパステルピンクに洋梨の綺麗なイラストまで、本の紹介に魅入られるというのは、「後にも」はわからないとして、少なくとも「先に」はない経験だった。

近所で唯一の書店で見つけられた感動もほどほどに、開いたその本はとても哲学的で、1ページ読み進めるたびに脳みそが雑巾のように絞られるほど難解だった。

それは一方では、わたしの孤独を気高さにアップデートしてくれた。
「愛とは」―本からわたしの顔面めがけてぶん投げられたその隕石のようなブラックボックスを、わたしは以後身体のどこか大切なところで保管しながら、折に触れて開いては、これでもない、あれでもないと思案する約5年を、今日まで過ごすこととなる。

カナダ留学で決めたこと「ジャスティン・ビーバーと結婚する」

高1の冬休み、初めてできた彼を早々にほっぽって11日間のカナダ留学に飛び立った。帰国後最大のお土産は、メープルシロップでも、ホストファミリーとの思い出話でもなく、ジャスティン・ビーバーの歌声の虜と化したわたしの英語力向上サクセスストーリーだった。

耳についたら最後、彼の甘い声が一体わたしに何を投げかけているのか、彼のすべてを理解すべく、片っ端から歌を聴き、一言一句を写経し続けたわたしは、ついに彼が夢の中で壁ドンしてくれるまでになった。初めての彼とは、ホワイトデーのお返しをしっかりと受け取ってから、お別れした。挙句、わたしには夢、というか野望ができた。

「ジャスティン・ビーバーと結婚する」
恋は盲目。
「日本にいるわたしは、世界を飛び回る彼に存在を知ってもらう必要がある」
ジャスティンと話しているインタビュアーがとても目についた。「わたしもこの作戦でいこう」と、とりあえず志望学部は国際系にした。

ジャスティンは恋人セレーナと付き合っては別れを繰り返し、わたしはしばらく翻弄されたが、無事大学に通い始めたころには、彼が志望動機だったことすら忘れていた。そうしていろんな恋をした。

時は流れ―今年の春、1年半をともにした人と別れた。プーさんのようないでたちで、何でも受け入れてくれるおおらかな人だった。彼から「おならしても案外大丈夫なこと」や「ひたすらに来てほしくない明日を呪ってもいいこと」そして「ただ何もせずYouTubeでラップバトルを眺めながらウイスキーを飲むのは豊かであること」を学んだ。

彼のおかげで、ありのままの自分を愛せた気がした。「不安からなのか希望からなのかわからない、漠然とした上昇志向(このままではいけない感覚)」を無視することができたのならば、充分すぎる日々だった。大好きな彼とは、わたしが折に触れて勧めた転職の決断を見守ってから、お別れした。

「別れた彼との共通の友人」は意志の人だった

数か月後にわたしの隣にいたのは、わたしと、別れた彼との共通の友人。とても眩しい人だった。すごい速さのランニングが趣味で、よく泣いた。周囲の人のどんなつまらない話も親身になって聴き、反応し、いつも自分と人の可能性を信じた。言葉や願望で終わらせず、どんな偉大な人にも直接メッセージを送り付け、会いに行き、道なき道を切り拓く。毎日命を燃やして生きる彼を見て、時々心がちくっと痛んだが、それが苦しいほどの彼への憧れであることは自明だった。彼はわたしにとって「意志の人」だった。
「腹を括った」
が、そんな彼の告白の言葉だったように思う。その言葉には、これまで聴いた誰のどの言葉よりも重みがあった。大切な友人関係に亀裂を生む未来に腹を括って、わたしと生きる道を選んだ彼の、身体の深いところから出てきた言葉だった。そして、そんな彼を見て思った。

「愛とは意志である」
ありのままの自分で生きることで、時に誰かを傷つけるかもしれないし、誰かに嫌われるかもしれない。それでも、本当に自分を信じるならば、それを選択することができる。どんな自分でも大丈夫だと知っているから。およそ5年越しに、ロバートに問われた「愛とは」を、少しだけ自分のものにできた気がした。

世界に「本当の愛ってなんだっけ?」と問いたい

だから今、わたしは自分を信じて行動したい。
「ロバート・ホールデン氏とお話する」
それがわたしの新しい野望だ。雲の上の人と会いたいなんて、どこかで諦めていた。でも今は、できると信じたい。
今わたしは、「愛とは」という大きな問いをともに感じ、考える若者向けの対話プログラムを作ろうとしている。

今度はわたしが、世界に「本当の愛ってなんだっけ?」と問いたい。出会ってこれからをともに生きる彼に負けないくらい、まずはわたしがどんな自分も愛せるようになる。そんな一歩を踏み出したい。

引用文献
ロバート・ホールデン『最高の人生を引き寄せるには自分を愛するだけでいい』(大和書房、2016年)