可愛くなろうとしたことは今までに何回もあった。
でも、それらはほとんど全て外からの動機付けによるものだったと思う。

好きな人に褒められたいから。
別れた元彼に後悔して欲しかったから。
自分をブスだと言った人を見返したいから。

どれも立派な可愛くなりたい理由だとは思う。
でも、自分のために、自分「だけ」のために、可愛くなりたいと思ったことは多分まだ、ない。

大学のミスコンに出場。判断基準は「容姿だけじゃない」というけど

2019年。大学のミスコンテストに出場した年。
おそらくはじめて「可愛くならなければ」と思った一年。
ちやほやされたくて出たわけではなく、いくつかの大義名分があって出場を決意した大会ではあるけれど、やっぱり出たからにはグランプリをとりたいという思いがあった。

そのためには何よりもまず、容姿を磨かなければ。可愛いと思ってもらえなければ勝ち目はないと思った。
「容姿だけでなく、人柄も評価対象です」なんてよく耳にするけど、写真一枚で美醜を競い合っていた大会に端を発したイベントごとなのだから、容姿が一番の判断要素となってしまうことは致し方ないことだと思う。鏡の中の自分と向き合い続ける4ヶ月間がはじまった。

ミスコンに出場してはじめて髪の毛を染めた

「あいつミスコン出てるくせにすっぴんで歩いてる」なんて後ろ指を刺されたくなくて、大学に行くときは朝食を犠牲にしてでも必ずメイクをした。
メイクは大学から見よう見まねではじめたものだったが、美容系YouTuberやファッション雑誌を手本に夜な夜な練習して、ナチュラルメイクから地雷メイクまでありとあらゆるメイク方法を習得した。

二十歳になるまで切るか伸ばすかしか経験したことがなかった髪の毛も、ミスコンに出場してはじめて染めた。
下膨れして見えるし左右非対称だから嫌いだった自分の笑顔も、小顔マッサージを試して、口角の癖も直して、人様にお見せできるくらいにはマシになったと思う。

とにかく美容のために大学生にしては多すぎるくらいのお金をつぎ込んだ。新しい洋服、コスメ、アクセサリー。二万五千円のパーソナルカラー&骨格診断。脱毛サロンにも十万はかけた。ミスコンに出場してからというもの、「他人のための自分磨き」に躍起になっていた。

「ミス〇〇ファイナリスト」という称号はどこに行っても付いて回る

結局ミスコンではグランプリはおろか準グランプリも取れずにファイナリスト止まり。
それでも「ミス〇〇ファイナリスト」という称号はどこに行っても付いて回り、なにをしていてもSNS上では容姿を批評され、時には批判されるようになってしまった。いつの間にか他人のために「可愛い」を維持し続けなければいけなくなっていたのだ。

立派すぎる肩書きに振り回される日々の中、ふと気付いた。
自分のための可愛いはどこにあるの?

そんな中で迎えた2020年。コロナ禍。外出が制限され、人と会うことが極端に減った一年。
SNSの更新も義務ではなくなったこともあり、急激に美容へのモチベーションが下がってしまった。誰にも見られないのだから、と自分に言い訳をしてすっぴんばかりの毎日。アルバイト先が経営難に陥り、収入が減少したせいで、脱毛サロンの解約も余儀なくされた。

気づけば就活がはじまり、髪は黒く染め、ネイルもやめてしまった。自分のためはおろか、他人のために自分を磨くことすら思うようにできないまま、この一年はあっという間に過ぎ去ってしまった。

大学最後の一年。私は自分のために可愛くなると宣言する。

だから、2021年。大学最後の一年。私は自分のために可愛くなると宣言する。
就活も終わって、来年からはおそらく一人で生きていかねばならないのだ。そろそろ自分のために可愛くなったっていいのではないだろうか。きっとこの頃にはミスコンも過去の出来事となり、大きすぎる肩書きにふりまわされ、悩まされることもなくなるだろうし。

とはいえ、どうすれば自分のためだけに可愛くなることができるのだろう。どんな批判も気にしないような圧倒的な精神力を身につければよいのだろうか。他人の目なんか気にしない余裕と自信をもてばそれが叶うのだろうか。

あまり考え込み過ぎず、今まで周りの反応を気にして手を出せずにいたことを一つずつやってみるのがいいかもしれない。
派手髪になってみたい。ゴスロリを着てみたい。おへそが出た服を着てみたい。そんな心の中に秘めていた「やってみたい」に思い切って挑戦してみる。

もうコンテストは終わったのだから、勝敗は関係なくなったのだから、どこでどんな格好をしようが私の自由なはずだ。ずっと周りの反応を気にして過ごしていたから、すぐには変われないかもしれないけれど、「やってみたい」に挑戦して行く中で、少しずつそんな考え方ができるようになれたらいいな、と思う。

だって、他人のためにたくさん可愛くなってきた人生、
あとは自分のために可愛くなるだけだから。