整形シンデレラとはよく出来た言葉だ。
私もそのガラスの靴を履いて最近まで舞踏会で踊っていた。
そうは言ったが、私は中学3年生くらいまでブスのカテゴリーに入っていたはずだ。自己肯定感の低さも相まって誰かが指さして笑うのではないかと思って百均のアクセサリーコーナーにさえ下を向いても入れなかった。
それが高校入学前に重たい一重を二重にしたら途端に自信が付いて華やかなグループに属することになった。笑顔だって怖くないし、彼氏も出来てスルスルと体重も落ちて、なんと三百円均一のアクセサリーショップやファストファッション店に堂々と入れるようになった。
魔法かと思った。見た目を少し整えただけで、両目の上に計4本の糸が埋め込まれるだけでこんなに人生が変わるなんて。
しばらくは二重まぶたと軽くなった体を謳歌し尽くした。どんどん垢抜けも研究したし、それが楽しくて仕方なかった。
けど、いつかは魔法は解けるし舞踏会は終わるもの。いや、最初から魔法はかかってなくて、あそこは舞踏会じゃなく場末のスナックだったのかもしれない。
思っていたよりささやかだった魔法。あれが本物の舞踏会なんだ
19歳の誕生日、私は初めて百貨店のコスメカウンターに向かった。ハッとするようなローズピンクの期間限定のリップがどうしても初めてのバイト代で買いたかったのだ。綺麗なお姉さんがズラリと完璧な微笑をたたえたいい香りのするキラキラとしたフロア。
できる限りのオシャレをして、呼吸の回数を極限まで減らして、ようやく目的のお店まで辿り着いた。
ハキハキとした店員さんがテスターを出してくれた。ほっと、周りを落ち着いて見渡した瞬間逃げ帰りたくなった。
細くて白い四肢に、骨格から整った綺麗な顔、顔、顔。
無理だ。こんなところ無理だ。私なんかがいていい所じゃない。
リップをその場でさっさと購入して、半泣きで電車に揺られながら帰ってきた。百均に入れなかった自分が、隣でまだ泣いているようだった。
まだ、入れないところがあった。魔法は思っていたよりもささやかだった、あれが本物の舞踏会なんだ、と新品のリップを眺めながらクーラーの効いた部屋で何かから逃げるようにタオルケットにくるまって眠った。
まぁこんな出来事もあったから完全ではなかったけれど、整形は私の人生を変えた。下を向いていただろう高校生活をうんと華やかにした。
けど整形と同時にかなりの努力をしたのも事実だ。そうじゃなければ女子力の塊、という評価をほしいままにはできなかった。
この瞼のシワひとつで周りからの扱いと顔面の評価は絶対に変わる
それら全部ひっくるめて私の人生は変わった。
どっちのせいだとかは私にはわからない。整形による前向きな心持ちの変化で人生が変わったんだよ!なんて純度100%の綺麗事は言えない。周りからの扱いと顔面の評価は絶対にこの瞼のシワで変わる。
けど、整形だけで人生がここまで変わったのかと言われるとそうでもない。実際に、ダウンタイム明けの本当に瞼にシワが出来ただけの私は「何だこんなもんか」という感想が漏れ出てしまうほどのあっけなさだった。
整形による顔の変化と心の変化。
人や施術、環境によって割合は違うけれど、どっちもあったから今の私なんだろうな。何千回も言われてきたような無難な結論を、あの時買ったリップを塗りながら割と頻繁に導き出す。あ、可愛い。やっぱりこの色買って良かった。
泥臭いシンデレラは本物の舞踏会に入れるのだろうか
この冬に私はまた同じ施術を受ける。もう少し幅広になった方が最高にイケてると思ったからだ。
デパコスカウンターこと、今の私にとっての本当の舞踏会には顔が変われば入れるのか、気持ちとその他が変われば入れるのかわからない。多分、入れるようになってもどっちが要因とは言えないと思うし、そもそも入れるようになるかもわからない。
唯一わかったことは、こんなにウダウダ考えさせられる整形は絶対にあんな軽やかな魔法じゃないってこと。
全く、童話とは違ってなんて泥臭いけど愛おしいシンデレラなんだ。