結婚することが自然だと思いがちなのは、なぜだろう。誰かに直接教えられたわけでもないのに。正解も不正解もないのに。
自分の考え、価値観を押し付けることはしたくないし、されたくもない。その人の人生は、その人のものであり、他人にとやかく言われる筋合いはない。人様に迷惑をかけない限り、どう生きようと自由だ。そう思っているのに、かつて、矛盾した言葉を口にしてしまった。
「あんなに素敵な人なのに、結婚していないのが不思議」
これである。

現在、私は結婚して1年と数ヶ月が経ち、もうすぐ30歳になる。
話は、独身時代、長年付き合っている彼氏がいたものの、結婚したいという強い思いを抱くわけでもなくどことなく不毛さを感じていた頃に遡る。
職場の同期との飲み会の席での話だ。

「結婚しないなんてっもったいない」という浅はかな言葉と感情

私たちの先輩に、それはそれは素敵な女性がいた。清らかなオーラが出ていて、話していても朗らかで、笑顔が可愛らしくて、気配りに長けていた。雨に濡れて帰ってきた社員がいれば、タオルを差し出して心配し、ミスをした社員がいれば、そっと励ましの言葉をかけてくれた。人の不幸は涙を流して共に悲しみ、人の幸せは輝く目を見開いて共に喜んでくれた。
自分が男性だったら、恋をしているかもなぁと思うくらい、尊敬していた。
そのような魅力的な方だったので、社員からの信頼も厚く、飲み会の席でも、その方との心温まるエピソードを聞けたわけである。その流れで、私は先程の言葉を口にした。

すると、同期は教えてくれた。
「先輩は、結婚に興味がないらしい。付き合っている人はいるけれど、形に、こだわりはないみたいだよ」
それを聞いて、「そうなんだ」と受け止めながら、もったいないと思ってしまった。そして、すぐに気が付いた。もったいないってなんだよ?それ、失礼じゃないか?
余計なお世話だ。好意的であるようで、そうでない、浅はかな言葉と感情だったと反省した。
自分も、周りから、「結婚しないの?」と言われる度に、どこか暗い気持ちになっていたというのに。

「恋愛の行き着く先は、必ずしも結婚とは限らないでしょう?」
既婚者となった今も、その気持ちは変わらない。たまたま、縁があって結婚することになったが、そんな日が来るとは思ってもみなかった。今は今で幸せで、配偶者に感謝しているし大切に思っている。とはいえ、苦しい時もあるし、もしも違う選択をしていたらと考えることもある。どちらにしても、幸せや後悔があっただろう。

良かれと思ってついつい出てくる不用意な発言という、厄介な問題

世の中には、素敵な人がたくさんいる。同性を好きになっても、異性を好きになっても、不思議ではない。
世の中には、素敵なことがたくさんある。結婚してもしなくても、いいじゃない。
どうしても、人には自分の信念や常識があって、良かれと思って不用意な発言をしてしまいがちなところがあるように思う。厄介な問題だ。

「結婚は早い方がいいよ。出産だって、高齢になると大変」
そんな言葉を、何度も耳にしてきた。そう話してきた人たちは、自身の経験をもとに、善意からアドバイスしてくれているのだとわかっている。また、話の種として、結婚は取り上げやすいテーマなのかもしれない。私たちに身近な、共有できる話題として。
マウントという言葉もあるが、少なくとも自分の周りに攻撃的な人はいなかった。また、自分もそうなってはならないと気を付けている。

幸せの形は、人それぞれ。余計な干渉をせず、かといって、突き放すのではなく、相手のことを尊重したい。誰もが生きやすい世の中というのは難しいけれど、それに近付いていってほしい。また、自身も、矛盾や葛藤、迷いに遭遇する度に、柔軟な考えや感情を持つようにアップデートしていきたい。