2020年は災難を通り越して、洗濯機の中にぶち込まれたような目まぐるしい年だった。
祖母が倒れて認知症になるわ、仕事を解雇になるわ、大好きだった恋人に振られるわで、参ってしまった。
仕事や家庭で問題が次々と。メンタルを支えたのが恋愛だった
私は28歳の独身、無職。恋人もいなければ貯金もない。体中の水分を全部引き抜かれたように感情や体調は窮屈で苦しいものだった。なにが一番つらいかと聞かれたら、自分の不安定で渇いた心だ。元々メンタルも強い方ではないし、仕事を生きがいにするほどの要領の良さも備えていなかった。
私の取り柄といえば恋人をとっかえひっかえしてしまう貪欲さと、中途半端な容姿であろう。可愛いか可愛くないかで訊かれたら「可愛い」の部類に入るが、超絶可愛いかとなると「それはない」といった具合。世の中ではこのぐらいが「一番モテる」という説を何度も耳にしたことがあるが、「一番厄介」の間違いではないだろうか。
そんな私だからなのか、恋愛の切り替えは素早いものだった。なぜならほとんどが自分から振る恋愛ばかりで、欲求が満たされないとわかったならば即座にマッチングアプリへ逃げ込むからだ。
私のような女性はきっとわんさかいる。寂しくて、心細くて、誰かに認められたい女性。そんなとき、マッチングアプリはとても手近で承認欲求も満たしてくれる役目となる。
失恋して落ち込む私に姉が伝えた言葉で目が覚めた
ある日、私は思いがけず恋に落ちた。
すでに2度会った飲み友達だったが好きなアーティストの話で意気投合し、気付けば好きになっていた。決してカッコイイとは言えない彼の顔も大そうカッコ良く見えてしまい、何より彼の言葉ひとつひとつにセンスを感じてお腹を抱えて笑い、女子高生のようにドキドキした。
肉体関係に至るまでさほど時間はかからず、危険なほどに彼にどっぷりとのめり込んでいくのを感じた。だから彼から「これから付き合っていく自信がない」と言われたときは辛かった。仕事の解雇も重なり、私はなにもする気が起きず、お風呂にも入らないで寝込む日々が続いた。とうとう心配した母がアパートにやってきて、食料を調達してくれたりもした。幸い母は同じ市内に住んでおり、心底ありがたいと思った。きっとコロナ禍でなければうまれなかった感情だろう。
母はただ静かに見守っていたが、その沈黙を破ったのは姉の言葉だった。姉は東京に住んでいる為、やりとりは主に家族のグループライン。私が彼と別れたと報告したらこう返信がきた。
「恋愛が始まってからずいぶん低い世界に落ちたなと密かに感じていたよ。人格も心も生活も。これじゃ成が苦しくなるよ。落ち着いて本来の成を取り戻してください」
ハッとした。
恋愛にかまけて周囲の人たちをぞんざいに扱っていたこと。
「彼の休日に合わせるために仕事をやめたい」と苛立ちに任せて口走っていたこと。
周りの忠告を無視し、朝帰りも厭わず彼の家に通い詰めたこと。
そして、愛されたいと思うあまり過度な浪費に走ったこと。
姉は気付いていたのだ。恋愛に取り憑かれて別人になってしまった私を。
周囲の人たちの存在に気付いた。ただただ恥ずかしくて申し訳なかった
私はただただ恥ずかしくて申し訳ない気持ちに襲われた。一番迷惑を被ったであろう友人にも謝ると「いずれ気付くと思ってあえて言わなかった」と笑ってくれた。自分はなんて情けなく、未熟で、浅はか極まりない人間だろう!
そして気付いた。「本来の私」を知っている人たちが当たり前のようにいた環境を。思えば欠けた部分を補うことに躍起になって、逆に何かを手にしたと思い上がれば、今度は満たされない心が際立った。人間は少し足りないくらいがちょうどいいのかもしれない。
「家族がいてくれてよかった」と、そんなことを今は思う。
まだ素直に「ありがとう」と言えないけれど、いつかきちんと伝えたい。彼にも、家族にも、自分にも。