アメリカの大学卒業目前ぎりぎりまで日本に帰ることを前向きに考えられなかった私を変えてくれたのは皮肉にも、あまり好きではなかった(むしろ苦手だった)教授の一言だった。
「今のあなたならなんでもできる。18歳だったあなたは一人、今よりも英語ができなかったのに知り合いのいないアメリカに乗り込んできたんだから。アメリカに戻りたいと思ったらいつでもあなたは戻ってこれるのよ」

日本に帰らない方が自分のためになるのではないか

日本にいた頃、高校生だった私は自己肯定感がびっくりするくらい低かったし、自分の人生に多くを求めていなくて、そこそこの人生を生きられていることに感謝するべきだと思っていた。
でも、アメリカに行って、将来への選択肢が無限に増えて、自己肯定感の高い人たちに囲まれて、自分らしく生きられるようになって、毎日がめちゃくちゃ充実していた。
それはとても嬉しかったのだが、悲しかったのは日本に一時帰国するたびに、たった1ヶ月ほど日本に帰っただけで、昔の自分に少なからず戻る感覚があったこと。日本に少し居るだけでこんなに自己肯定感が下がるなら、私は日本に帰らない方が自分のためになるのではないかと真剣に考えた。

だから大学卒業後の進路を考えた時に、自然と日本に帰る以外の選択肢も検討した。アメリカでは海外留学生が大学卒業後に就労ビザを獲得するのはかなり難しく、ほとんどの日本人留学生は日本に帰国し就職しているのが通例だった。

そして奇しくも私が卒業後の進路を検討しはじめたタイミングでアメリカの大統領選挙が行われ、トランプが大統領に選ばれた。ニューヨークという民主党が優勢な州にいた私は、まさかトランプが勝つと思っていなかったが、この結果からアメリカの「分断」が垣間見え、私にとってほとんどネガティブな要素のなかったアメリカに初めて少し疑問を持つようになった。そして留学生界隈ではトランプ大統領が留学生ビザを制限するだろうや就労ビザの基準がさらに厳しくなるだろうといった噂が頻繁に流れてくるようになり、なんとなくアメリカに残るのは難しそうだなと感じるようになった。

18歳の自分にできたら今の自分にもできる

それでも、私は日本に帰国することに対しての覚悟がまだ定まっていなかった。
なんかアメリカに残る理由がどこからか急に降ってこないかななんて期待してみたり、1番確実に残れる方法はこのまま大学院に進学することかもと思って卒業まで数ヶ月を切った頃に急に大学院について調べてみたり。

それでも何も見つからないまま卒業まで残り少しという時。
卒業論文など含めて全ての単位が揃っているかを学部長であった教授に念のために確認に行った際に卒業後の進路の話になり、なんとなく日本に帰ることに抵抗があることを伝えたところ冒頭の言葉を言われたのだった。

なんであの時、特にこれまで何かを相談したこともなく、どちらかというと距離を置いてきた教授に話そうと思ったのかわからなかったけれど、結局その一言は私を後押ししてくれる一言となった。
だって教授が言ってくれたことは間違いなく事実で、18歳のころの私は無防備にも一人でアメリカに乗り込んだ。そして今の私はアメリカでの大学生活をサバイブしたという成功経験がある。もし日本に帰国してやっぱりまた海外に行きたいと思った時、その経験は絶対私を後押ししてくれるし、18歳の自分にできたら今の自分にもできるという確信を持つことができると思った。

日本で生きるのも結構居心地がいい

そんな言葉に励まされて日本に帰国してまもなく4年になる。
帰国1年目はアメリカ時代の自分の時のように自分らしく生きたいと日々必死だったけれど、気づいたら日本での生活に慣れて、日本で生きるのも結構居心地がいいなと思うようになっていた。

何故だかわからないが、懸念していた「自分のことが嫌いだった自分」に大きく戻ることもなく、概ね自分のことが大好き人間を続けられている。
でも、そこにはきっと、「いつでも海外に出たいと思ったら自分は日本を脱出できる」という確信があるからだと思う。
そしてその確信を持つことができたのは、やっぱりあの教授のおかげだなと4年たった今でも思う。