彼が嫌いだ。どうしようもなく。

1つ年上の男に告白されたのは、4年前の冬だった。地元の飲み会で知り合い、なんとなく話が合った。なんとなく趣味がかぶった。なんとなく2人で出掛けた。

そして、なんとなく一緒に過ごす時間が増えた。

私たちの「名前の付かない関係」は、とても居心地が良かった

私たちの関係に名前はなかった。男女が週に一度飲みに行く、その関係に名前を付けるとしたら何が当てはまるのだろうか。恋愛のようにベタつかず、友達より少し距離感があり、知人にしては親しすぎる。そこには、お互いの領域を脅かさない配慮があった。名前の付かない関係はとても居心地が良い。

ただ、関係が長引くにつれて、この曖昧さが不安になってきた。恋愛感情を向けられたら突っぱねることができるけど、彼から品定めするような視線は感じない。

「友達だと思っていいの?」と尋ねるのは、なんだか相手を牽制してるみたいだし。私たちの関係に名前がつくのは、いつなんだろう。居心地の良さにも有効期限はあるのだろうか。

放っておいても答えは出つつあった。彼の表情、態度、行動が“なんとなく”から“その気”に変化していく様がありありと見えた。あくまでも憶測だが。

「うみちゃんはいい子だね」「荷物、持とうか?」「今日は何食べたい?」「青が似合うよね」などと、彼氏が彼女を甘やかすような言葉の数々に、プレッシャーを感じるようになった。

傷つかずに優しく断る方法はないのか?言葉を選んでも傷つけてしまう

“なんとなく”の私は、“その気”になった彼の好意に対して、同じものを返せない。紳士で落ち度のない彼に対して、このままの関係はフェアじゃない。会う頻度を減らし、LINEの返信を滞らせ、距離を置こうとした。彼はその距離をぐいぐい詰めてきて、私が限界を感じた頃、やっと告白してくれた。

私の憶測も、自意識過剰じゃなくて済んだ。何度も考えたけれど、人が傷つかず、優しく断る方法はないように思う。どんな言葉を選んでも、傷つけてしまう。

彼は告白するにあたって、夜景が美しい灯台を選んだ。車で片道1時間かかるのに、フラれる可能性は考えなかったのだろうか。

「もう気づいてるかもしれないけど、うみちゃんのことが好きです。付き合ってください」
「…ごめんなさい。恋愛感情は持てません」
「少しも可能性はない?」
「うん」
「こんなに人を好きになったの初めてなんだ。お願いだから、僕で妥協してほしい。手を繋ぐとか、その…身体の関係は求めないから。ただ、一緒にいられるだけでいいんだ」

彼はマニュアル通りの正しい恋愛感情を向けてくれたけれど、逃げ場は与えてくれなかった。もっと軽薄な人だったら、傷つけることを躊躇わずに済んだかもしれない。

私は、とどめを刺すつもりで「恋愛感情を持たれたまま、一緒にはいたくない。〇〇くんのこと、好きにはなれない」言った。

心地良い関係だったのに…傷つけることを選ばせた彼を嫌いになった

黙り込み、涙目になる彼を見て思った。好きになった彼が悪いのか、好きになられた私が悪いのか。私は彼を傷つけた。あんなに居心地の良い関係だったのに。傷つけることを選ばせた彼を、私は嫌いになった。帰りの車内はやっぱり空気が重かった。

彼はなかなかしぶとい人間だった。告白のあと、彼は「友達になろう」と言い、初めて二人の関係に名前を付けたのだ。それからというもの、2か月に1度は他愛ないLINEがきて、年に3度は軽い食事に行く”決まり”のようなものができた。

そして現在に至り、有言実行するように、最近、彼はカノジョをつくった。

「カノジョができたこと、早く知らせたかったんだ。正直、ちょっと安心したでしょう?」と言う彼の目には、まだ熱がある。あくまでも憶測だが。

男女の友情は成立するのだろうか。私たちの関係に、名前はないのだ。