大好きだった彼から、
「別れよう」
たった4文字のメッセージが届いた。
"ふられる"ってこんな感じなのか。と、冷たい雫がそっと頬を濡らした。
「ずっと好きでいてもいい?」
震える指で、そう送ると、
「ごめん。それもダメ」
と、返信がきた。そして、私は"二度と恋などしたくない"と思うようになった。

彼と出会ったのは、中学校に入った4月のこと。ゆれるピンクの花びらが窓を明るく彩る中で、担任の先生が1人ずつ名前を呼んでいく。
聞き馴染みのない、珍しい名前に私の身体は、自然と反応した。
「はい」中学校1年生にしては低めの落ち着いた声。凛とした横顔。
その一瞬で、私は彼にすっと心を奪われた。
なんとなく気の合う彼と私が付き合うまでにそう時間はかからなかった。
付き合う。といっても、変わったことはメールや電話でやりとりするかどうかくらいで感情を表に出さない彼が、どれくらい好きでいてくれるのか、私には分からなかった。それでも、好きな人と付き合っているという事実だけで、当時の私は幸せだった。

いやだいやだ助けて。ある朝、嫌がる私に彼は無理やりキスをした

そんなある日、彼の小学校の親友だという別のクラスの男子に声をかけられた。気さくな人だったので、私は、彼の友達として仲良くするようになった。
しかし、その友人の私への接し方はエスカレートしていき、仕舞いには早朝に家まで押しかけてくるようになった。思春期の私は、親に知られたくないという一心で、インターホンを鳴らされる前に、恐怖心を抱きながらも友人に言われるがまま外に出た。
そんな日が続く中、いつものように押しかけてきた友人は、突然、私を家の壁へ押しやり無理やり顔を近づけた。まだ、日の出ていない、霧がかった朝だった。いやだいやだ助けて。頭の中で彼の名前を何度も繰り返した。必死で顔を逸らしたが、そんな抵抗も虚しく、私はその友人とキスをした。

大好きな彼に話さなければいけない。
私はもう汚れてしまった。彼女失格だ。最低だ。

けれど、大好きな彼と別れたくない。同級生の中でも格段に大人な彼は、直接的に好きだと伝えてくることはほとんどなかった。
彼はほんとに私を好きでいてくれているのだろうか。
ほんとに好きなのであれば、こんな私でも受け入れてくれるんじゃないか…大きな罪悪感と、心を引き裂かれたような悲しみの中で、淡い期待を抱くほどに、私はまだまだ子どもだった。

「別れよう」4文字だけのメール。心臓がもう壊れそうだった

「ごめん。友人にキスされた」
震える指で、そっとメールを送った。
しばらくすると、
「俺はお前を守れなかった。ごめん。別れよう」
そう返信がきた。
「悪いのは私だけど、別れたくない」
自分が悪い。なにがきても仕方ない。と思っていたのに、気づけばメールを送っていた。すると、彼は、
「別れよう」
4文字だけメールを送ってきた。
その言葉を見て、私は、罪悪感よりも、悲しみが大きくて、やっぱり、「彼には私ではだめなんだな」と思った。
こんなに誰かを好きになったのは、初めてだった。恋は、甘いだけでなく、切なく苦しいものなのだと、そのとき私は初めて悟った。

「わかった。こんな私じゃいやだよね。今までありがとう」
そう送ってはみたものの、彼以外の誰かを好きになることなんか想像できそうになくて、すがるように、
「ずっと好きでいてもいいですか?」
とメールを送った。心臓は、もう壊れそうだった。
しかし、彼からの答えは、
「ごめん。それもだめ。違う人と幸せになって」
それを聞いて、私は、ああ、嫌われた。と思った。

彼と別れて数年後、やっと恋をして初めて彼の言葉の真意に気付く

人生ではじめての失恋を経験した私は、何時間も枕を濡らした。
それからの私は、誰とも付き合わなくなった。
彼のことが忘れられず、部活動の発表のあるときには、彼に声をかけ、そんなとき彼は、必ず足を運んでくれた。短いメール。淡々としたやりとり。友人として優しい彼はきてくれるのだろう。と、嬉しい反面、切なさがいつも邪魔をして、私の笑顔はきっと歪んでいただろう。
大学生になった私は、友達にすすめられて何人かと付き合った。それなりに、好きだったし楽しかったが、心から好きになれる人には出会えず、付き合っては別れてを繰り返した。
彼と別れてから数年後。ついに私は恋をした。
そうしてはじめて、あの時の彼の言葉の真意に気づいた。
あの時、彼が私をちゃんと振ってくれなかったら。私は、異性には気をつけるようになっただろうか?
好きな人に好きだと伝えられただろうか?
新しい出会いに向かって歩き出せただろうか?
大人になって彼の友人から、「上級生になるまでは彼女が先輩から目をつけられないように一緒には帰らない。大切にしたいから、手も出さない」と話していたことを聞いた。
彼はきっと私のことをちゃんと好きでいてくれていた。

あの日の私の言葉を拒んだ理由。それは私を守るためだった

俺と付き合わなければ、こんなことにはならなかった。自分の友人によって傷つけ
られた私と付き合っても、その思い出を思い出させてしまう。資格がない。
好きでい続けてもいいと言ったら、きっと私は他の人をみようとしない。
だから彼は、あの日の私の言葉を全て拒んだ。

大して好きでなかった。
そんな風に捉えた自分が恥ずかしかった。

なにも悪いことはしていないのに、ある日あんなことを突然聞かされて、自分は誰にも愚痴など言わず、別れた理由は、自分が悪いと語り続けた彼は、いったいどれほど私のことを大切にしてくれていたのだろう。彼女もつくらず、連絡が来たときだけは、必ず会いに来てくれた彼は、一体なにを思っていたのだろう。

好き、とは、何でも受け止めることではない。
好き、とは、ただ側に居続けることではない。
好き、とは、言葉だけで表すものではない。

あまりにも、未熟な私に、本当の好きを教えてくれた大切な人。
彼の「別れよう」は、最上級の"好き"だった。
きっともう、彼に会うことはないけれど、
「あの時、ふってくれてありがとう」
心からの感謝を胸にして、今日も私は生きている。