私に初めて恋人ができたのは、社会人になってからである。

理想は高いくせに、コンプレックスもめちゃくちゃ多く、被害妄想も激しい。恋愛に関しては、成長することなく20代になってしまっていた。

理想のタイプではないけれど、「初めての彼」に私は浮かれていた

彼は年下で、背が低かった。対して、私の理想は年上で背が高い人。ただ、そんな理想に目をつむれる程、当時の私は「初めて付き合えるかもしれない」という喜びに心が躍っていた。

話もわりと合うし、一緒にいて心地よい。3回目のデートで、告白をされた。心がふわふわするってこんな感じかあとなった。手を繋がれ「今ドキッとしたでしょう」と聞かれ、したり顔の彼のガサガサに荒れた手は、正直気持ちよくはなかったが、少女漫画みたいなセリフに痺れた。

付き合って間もなくして、バレンタインデーがやってきた。何か喜ばれることをしたい、そう思って手作りのカップケーキを作ることにした。当日に向けて練習をして、完全に心は中高生。

ただ、私の手作りだけでいいのか？ と不安になった。バレンタインの催事場でうんうん悩んで、チョコを購入した。当日渡すカップケーキは、面白いくらいに膨らまなかった。予定よりも小さい素人カップケーキと、綺麗で美味しい買ったチョコレート。2つを紙袋に入れた。

バレンタインに渡した「手作り」のカップケーキと「買った」チョコ

当日、彼の髪の毛にフケがついていたが、指摘するのは気が引けたので、手で払ってあげた。私は好きになると、大抵許してしまうのだ。

帰り際に私は紙袋を渡した。「片方は自分で作ったんだけど、うまくいかなくて」としゅんとする私に「こういうのは気持ちだよ、ありがとう」と彼は言った。あまりにも理想的な言葉。彼が好きだと思った。この時は。

翌日、彼から「チョコの方は美味しかったよ！」とLINEが来た。なかなかストレートなパンチが決まった。パンチを受けながらも、私は「チョコレートを買っておいてよかった」と思った。

ホワイトデーは、渋谷で待ち合わせをした。待ち合わせ時間まで時間があったので、本屋でプラプラしていた。待ち合わせ5分前。彼から「1時間遅れる」とLINEが来た。もっとはやく連絡できただろと思ったが「いいよ、いいよ」と許した。

ようやく彼が来て、店に入った。座った途端「さっき遅れたのはね、友達と会ってて。もう一軒行こうってなって」ニコニコしながらそんなことを言う彼に驚いてしまった。「そうなんだ」後回しにされたショックを隠しつつ、私も同じように笑った。

カウンターの席で、お好み焼きのようなものを頼んだ。美味しかった。でも、彼は顔をしかめる。「俺はさ、親が大阪出身なんだよね。だから大阪で食べる方が美味い」と彼が言った「お前は大阪出身ではない」と言いたげな板前さんの視線を感じつつ、私は「へー」と答えた。

何その満足げな顔？人の話聞かないし、疲れるし、私この人嫌いだわ！

その後、チョコレートを渡された。いつものしたり顔で「お返し。チョコは美味しかったよ」と念押しされる。「わーありがとう」なんて言うけど、紙袋の中にはもう一枚紙袋。多分、会う前に慌てて買ったんだろう。

「俺、料理すんだよね。そこらの女子よりも上手いと思う」そう言って、滔々とつまみのレシピを言い出す。くそほどつまらなくて「そして、トマトを」と言い出した時、私は「そういえばトマトって……」と挟んだ。

すると「もういいよ、聞かないなら」と彼は頬を膨らまし、そっぽを向いた。「わーごめん」と私は腕をパンパンと叩いた。満足げな顔。最後まで私はトマトの話をさせてもらえなかった。

帰り道、ちょうど漫画の最終回が少年ジャンプの本誌に掲載されていた。彼は、街中でネタバレを披露した。この日、私は彼が嫌いになった。

私は、そんな彼にLINEでフラれた。この日を境に、彼へのLINEの返事が「へえ」と「ふうん」になったからだ。

私が彼を許し続けることができれば、この関係は続いたのかわからない。ただ、私には耐えられなかった。私、は私を甘やかしたい。疲れる人といたくはない。

後悔することがあるとしたら、直接会って、嫌だったことを言ってやって、私がふってやりたかった！