彼はずっと仲の良い友人グループの1人で、面白くて波長の合う人だった。その頃恋心は無くて、男・女というより人間として本当に好きだった。
彼とは個人で連絡を取り合うこともたくさんあった。というのも、私たちはお互いに物事に対してよく考えて話し合いをするのが好きだったから。
突然始まる政治の話や本の話、宇宙の話や夢の話。いろんなジャンルの話をして考えていることや思ったことを言い合っていた。
その曲が流れてきて、あったかい彼の笑顔に会いたいと思った
そんな彼が好きだと気付いたのは、連日寒い日が続いていた2月半ば。
その日はたまたま春のような暖かい日で、お昼頃音楽を聴きながら散歩していた。その時に何千と登録してあるプレイリストからランダムで流れてきたのは、彼が「良い曲だから聴いてみて」と教えてくれた曲だった。
「力抜いて緩やかに生きていたって、それを他人になんと言われたって、人と比べる必要はないよ。あなたは十分に満たされてるよ」というメッセージの曲で、いつも気を張って背伸びをしてしまう私にとっては、とても良い歌だなぁって思ってた。
その曲が流れてきて、優しくて春のようにあったかい彼の笑顔に会いたいと思った。
彼が好きなんだと気付いた。
でもそれを言いたくなかった。この気持ちを伝えてしまえば、今までの関係が終わると思ったし仲の良いグループも気まずくなってしまうとも思ったから。
彼となら将来一緒にいたいなと思ったけれど、電話越しに振られた
しばらく好きな気持ちを隠したまま過ごしていたある日、いつも通り遊んでいた私に彼は「ずっと好きだよ」と言った。信じられなかった。ずっと片想いだと思っていた彼が私を好きだと言ってくれたこと。彼の”彼女”になれること。彼に隠さず好きだと言えること。
それから彼は時間を作ってたくさん会いにきてくれた。天気の良い日に散歩して、雨の日は家でゲームをして、お腹が空いたら一緒に料理をした。気を張らず、肩を並べて話をできる恋人は初めてだった。幸せだと思った。結婚にいい印象を持ってなかったけど、彼なら将来ずっと一緒にいたいなと本気で思ってた。
でも「別れたいと思ってる」と夜中に電話越しに私は振られた。理由は怖くて聞けなかった。いつも突然な彼が好きだったけど、こんな突然別れる日が来ると思ってなかった。「最後に会って話がしたい」と数週間後、約束をした。
話したいことがたくさんあって、前日の夜まで話すことを考えてた。何が彼をそういう気持ちにさせたのだろう。どうしてだろう。考えてもわからないことを全部聞きたいと思ってた。
理由を付けたがるけど、理屈では片付けられないモノもあると知った
当日、彼はぎこちなく笑いながら「ひさしぶり、元気?」と言った。カフェで注文を終え料理を待ってる間、彼はソワソワし仕事の話を始めた。
私は今、彼を困らせているんだなと思ったら何も言えなかった。というより、やっぱり理由を聞くのが怖かったのかもしれない。
彼から別れ話について何か言ってくることもなく、料理を食べ終え店を出た。「じゃあ帰ろっか」と小さく言った彼に「うん」と言って駅で別れた。呆気なく私の好きな人は、他人よりも遠い人になってしまった。帰りの電車で涙は出なかったけど、力が抜けて乗り換えができず終点まで電車に揺られていた。
あれからしばらく経つけど、未だに振られた理由はわからない。
その後仲良かったグループで集まることはなかったし、気を利かせてみんな彼の話をしなくなった。だから私も彼のことを誰かに尋ねることはしなかった。だけどあの音楽を聴くたびに、彼のことを思い出した。
付き合うことや別れることだけではなく、やることなすこと全てに理由を付けたがるけど、理屈では片付けられないモノもあることを知った。きっと彼の中で何か引っかかるものがあったのだろう。しょうがないなと言えるまでに時間がかかったけど、今は彼がどこかで元気に生きていればいいなと思える。
けど、ちょっとは気になっているから、いつかどこかで会えたなら聞いてみたいなぁ。