「あなた、まだ彼氏いないの?」「その歳で彼氏いないの、ヤバいよ」
26年間生きてきて、こんなことをいろいろな人から何度も言われた。

大学生になって、大慌てで出会い系アプリに登録したけれど

どうやら、ふつうは20代にもなれば現在進行系だろうが過去形だろうが彼氏の1人くらいいるものであるらしい。LGBT含むいろいろな人の恋愛経験談を読んでも、早ければ高校生の頃にはもうパートナーがいたようなケースがどうやら少なくはなさそうに見える。

20歳で大学に入った私は、家族から「ヤラハタ(ヤらずにハタチ)はやばいよ」と脅され、大慌てでパートナーを作るべく出会い系アプリに登録した。異性愛者用も、同性愛者用も。だが結局、パートナーを作らないままサービスを退会し、アプリをアンインストールすることとなった。単純に全くモテなかったのと、性嫌悪症が障壁となったからだ。
この頃はまだ、自分に恋愛経験が無いのは見た目も性格も悪いしセックスもできないからだ、としか思っていなかった。

大学3年だか4年だかの頃、何で読んだかは忘れたが、「アセクシャル」「ノンセクシャル(ロマンティック・アセクシャルとも言う)」なるセクシャリティがあることを知った。

異性同性関係なく他者を恋愛目線で見ない人、恋愛はするが性的な感情を抱かない人のことだ。

当時の私はLGBTは知っていたものの、恋愛においてふつうとされている「セックスを伴う恋愛」をしない人を示すカテゴリが存在することにまず驚いた。そして、自分自身を省みると、性嫌悪症を抜きにしてもそれまでの人生で他者へ性欲を向けることが皆無だったので、このどちらかのカテゴリには所属できるんだという安心感を抱いた。恋愛において何かしらのカテゴリに属することは、人間が複数人集まった際に必ず出る「恋バナ」で自分の立場を表明できることと同義に近いからだ。

どちらかに分類されると知ってからは、ずいぶんと生きやすくなった

自分がアセクシャルもしくはノンセクシャルのどちらかに分類されると知ってからは、ずいぶんと生きやすくなった。
ふつうの恋愛における恋愛感情が「相手への好意+性的欲求」であると解釈することにより、どうして問題視されるかわからずモヤモヤしていた「夫婦のセックスレス」や「草食系男子」といったワードに対して、「ふつうの恋愛はセックスを含むものだから、世間的にはセックスしたがらないのは普通じゃないのかぁ」と納得できた。

彼氏をとっかえひっかえしている姉やファンを食べるバンドマンなどの性に奔放な人やセフレなる概念へ抱く正体不明の気持ち悪さが、単純に自分の知らない・理解できないことを良く思わない、本能に近い感情から来ているだけだと理解できた。

友人に「私もだよ」と言える。寄り添うのは、恋人をつくるより素敵だ

ふつうの人たちがなぜそんなにセックスしたいのかは、未だにわからない。
あと、実は、一応ノンセクシャルを名乗ってはいるが、本当にノンセクシャルなのか、本当はアセクシャルなのかもよくわかっていない。人を好きになった経験があった気はするけれど、違う感情だった可能性もあるから。

ただひとつわかったのは、「ふつうの恋愛なんかしなくていい」ということだ。大嫌いなセックスは今後もしなくていいし、なんなら大して興味のない恋愛そのものもしなくていい。

セックスを伴わない恋愛をするのはふつうじゃないし、全く恋愛しないのもふつうじゃない。けれど、私は個性的でいるのが好きなので、生涯覆しえない「ふつうじゃない」ことがあって嬉しいくらいだ。それに、恋愛ができないと悩む友人に「私もだよ」と言える。悩める友人に寄り添うことは、無理して恋人をつくるより素敵なことだ。
なので、「あなた、まだ彼氏いないの?」「その歳で彼氏いないの、ヤバいよ」と言われたら、「うん、いないしいらない」と答えることにしている。「人生、ふつうじゃないことが1つくらいあったほうが面白いのにな」と思いながら。